みんと

サタンタンゴのみんとのレビュー・感想・評価

サタンタンゴ(1994年製作の映画)
4.3
56歳の若さで映画監督からの引退を表明したハンガリーの巨匠タル・ベーラが、4年の歳月をかけて完成させた7時間18分の大長編。

経済的に行き詰まり終末的な様相を纏ったハンガリーのある田舎町。そこに1年前に死んだはずの男イリミアーシュが帰って来た。果たして彼は村にとって救世主なのか?それとも?…

搾取する側とされる側を交差させながら、またイリミアーシュのカリスマ性を描きながら全編12章で構成される。当時のハンガリーにあったであろう閉塞感、絶望的なまでの退廃を寓話的に紡ぎながら紛れもなく社会主義時代の暗部が炙り出される。それと同時にあたかも世界の行く末を予言しているかのようにも感じる。

いや~噂には聞いてたけど、とんでもない映画体験!映像体験!
映画は芸術なんだと改めて感じる大作だった。

そして、なんと言う長回し!438分を150カットで撮る。ワンカットの長いこと長いこと!フレームアウトするまでただ歩くだけのシーン、エンドレスなダンスシーン…
間違いなく好みが別れる作品に違いないけれど私は好きだった。とりわけ構図には唸りっぱなしだった。

正直、多くの方が言われるようにムダなシーンが無いかと言うとそうとも言いきれない。けれどムダかムダじないかとかストーリーがどうとか… それらを全て飛び越えて伝わって来る何かがある。別次元で体感出来る何かがある。

フレーム内に収まるべきところに収まる緻密さと拘りを随所で、いや全編に感じられる。人物のクローズアップの多くは頭部が見切れるけれど絶妙な比率。鳥肌だらけの構図が長尺を忘れさせる。150カットの全てに漲る画の力と言うか、監督の想いと言うか、拘りと言うか、執念と言うか。

その拘りの強さは衝撃的な猫のシーンの準備の周到さも容易に想像出来るし裏話を知る限りでも明らか。…なんだけど、やっぱり苦痛、見てられない。心穏やかじゃ居られない。と同時に今作の評価は間違いなくココが境目とも。

静止画からやっと動き出す映像、又はその逆は辛抱と忍耐を強いられると言うより、美術館で歩を止めて1枚1枚をじっくり観進めて行く感覚に近い。当然ウトウトなんてしてられない。

果たして何テイク繰り返したのだろう…
気の遠くなるような製作現場を想像するし、演者さん達のご苦労も想像出来る。

これはもうタル・ベーラ美術館、いやサタンタンゴ美術館として十分成り立ちそうだしあれば行ってみたいなぁ…
なんだったら写真集でも良い。

全てのシーンが圧倒的。こんなにも長尺なのにもう一度じっくり観たいと思ってしまう。但し、次は猫の章(第5章)は飛ばして。
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