しゅん

サタンタンゴのしゅんのレビュー・感想・評価

サタンタンゴ(1994年製作の映画)
3.8
思ったより「普通」の映画だったというのが第一印象。特段奇をてらってるわけでもないし、話の筋が読めないわけでもない。長回しにしたってタル・ベーラの前に幾人かの巨匠(ミゾグチとかミゾグチとかミゾグチとか)もいるわけだし、ワンカットの長さならおそらく『ニーチェの馬』の方が上。撮影と編集でストーリーラインを作っていく、非常にオーソドックスな映画なのではないか。カルト的な異端ではなく、あくまで今まで綴られた映画史の後継として自らをレペゼンしている作品。
その正統性の流れにおいても、複数の俳優が正面に立ち並ぶときの構図や、横移動した時に現れる人物や物体の意外性から感じ取れるカメラ位置設定と空間設計のセンスはズバ抜けており、これ以上ないお手本のような整い方をしている。醜い世界に美しいものを見いだす力が存分に発揮されているし、出口なしの時間感覚を体感させる全体の構造も機能している。特にフタキ(セーケイ・B・ミクローシュ)が一人街へ歩き去っていくワンカットは、歩くスピードとカメラが上空移動するスピードが一致することで画面上のフタキの位置が動かないかたちになっており、逃げようとしても逃げられない悪夢のフィーリングを撮影で表現していることに大いに唸った。鈍重なドクターが座っている椅子の裏側の存在感も半端ない。

『ニーチェの馬』(ほんとは原題どおりの『トリノの馬』と言いたい)をオールタイムベストの一つに挙げてる身としては物語性の強さがタル・ベーラの映像構築の力を弱めているのではないか(カメラが静止している時の画の魅力に対して動画としての力強さが薄かったように感じる)という思いを抱いたりもしたのだが、もっと反芻しなくてはなにもわからないのでひとまずの感想はこんな感じです。11章の、イリミアーシュからくる詩的かつ粗暴な報告を書き換える警官たちのやりとりがかわいくて笑ってしまった。「「脂肪のまとわりついた醜い雌豚」はこのままでいいかな」「ダメだ。「デブ」にしとけ」「「肥満体」でいこう」とかそんな感じのやつ。書き言葉にするとただヒドいけど…