しめじろー

サタンタンゴのしめじろーのレビュー・感想・評価

サタンタンゴ(1994年製作の映画)
4.1
巨匠タル・ベーラ監督が4年の歳月をかけて作成した、7時間18分という長尺を誇る伝説的な映画です。インターミッションがある映画自体久しぶりに見ましたけど、本作はそれが2回入る。14時に映画館に入って、上映が終わったのは22時過ぎでした。

「俺のコートを見ろよ。昔はしなやかだったが、今じゃ硬くてバリバリだ。雨の所為さ。外側の雨と内側の雨。特に内側の雨が厄介で、心臓から常に降っている雨が、コートに染み込んでいくのさ…」
雨季に入り、降り止まない雨と泥により周囲の町から断絶された貧しい集落。ある朝、村人フタキは遠くで鳴る鐘の音で目を覚ます。しかし集落から一番近い教会は廃墟となっており、鐘など鳴るはずがなかった。そんな中、1年半前に死んだはずの男イリミアーシュがこの村に帰ってくるという噂が流れる。鳴るはずのない鐘の音が、帰るはずのない男を呼んだ。果たしてイリミアーシュの目的は?彼は集落に何をもたらすのか…?

7時間18分といったらアニメ2クール分ぐらいあるので、どんな大長編なのかと思ったら、終わってみるとすごくシンプルなストーリーでした。というのも、この映画全部で150カットくらいしかないんですね。つまり1カット平均3分という、超長回しで構成されている映画なんです。普通の映画なら数秒でカットされるようなシーンが数分続く。全然話進まないです。多分この話、ギュッとしたら3時間くらいで終わっちゃうと思います。
それでも飽きずに見ていられるのは、単純に話の先が気になるということと、静かながらも圧倒的な迫力のある映像センスの力。冒頭の牛。嵐の中を歩く男たち。廃墟に佇む村人。映画を支配する閉塞感と終末感、雨がもたらす泥と錆、死を待つ集落の息遣いが生々しく伝わってきます。酒場でのダンスのシーンはさすがに長えよ!!と思ったものの、おばちゃんの揺れるおっぱいとオッサンのおでこの上のチーズロールをぼーっと見ていると意外と退屈しません。
しかし寂しいストーリーでしたね。心の貧しさについて考えさせられました。警察、イリミアーシュ、村人、ドクター、少女、そして猫。他者から奪われて、別の他者から奪っていく永久ループ。閉じた世界の中で、終わりのない雨と貧しさで心まで色褪せていくようでした。最終章のドクターのやるせなさよ…。でもドクターが一番好きなキャラクターです。

この映画を映画館で見たぞという満足感も相まって、とても楽しい映画体験でした。前半ちょっとウトウトしてしまったので、機会があればもう一回見たいなあ。