緑雨

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌の緑雨のレビュー・感想・評価

2.8
米国版『苦役列車』。本当なら主人公のダメさを嗤いたいところだが、コーエン兄弟の手腕が完璧すぎて嗤えない。

まず猫の使い方がよい。犬をうまく使った映画は数多観てきた気がするが、猫をうまく使いこなした映画は案外珍しい。シカゴへの短い往復もエピソードの組み入れ方が手際よく、サスペンスと毒気は極上だ。映像は終止端正だし、会話劇は相変わらず隙がない。亡き相方の影を全編に渡り漂わせる手管も感心するしかない。振り返れば褒めるところしかないのだが、なぜかイマイチ面白くない。完璧すぎて遊びがないからか。

演奏する楽曲を除けば、半世紀前を舞台にした映画という感じがしない。現代を舞台にしてもそのまま通用しそう。その点で深みが不足しているのかもしれない。

つい『苦役列車』を連想してしまったが、『苦役列車』の主人公(=原作者)がその後雌伏を経て作家として名誉を得ることを我々は(事後的ならぬ)事前的に知った上で映画を観ている一方、本作の主人公は本当に「名もなき男」として時代の中に埋もれていく。その救いのなさにやや殺伐としたものを感じる面はある。
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