MasaichiYaguchi

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.6
ジョエル&イーサン・コーエン監督の最新作は、1960年代初期のフォークの世界を舞台に、心の琴線に触れるフォークソングの数々に彩られ、無名のシンガーの一週間を切り取って描いていく。
1961年、ニューヨークのグリ二ッジ・ヴィレッジで演奏活動しているルーウィン・デイヴィスは住む家も無く、友人や知人の所を泊まり歩いているという根無し草のような生活をしている。
更に今の彼は、デュオのパートナーをなくし、ソロでレコードを出したものの売れず、成り行きで関係した女友達からは妊娠を告げられるという袋小路状態。
それでも自分の歌にプライドがある彼は、売れる為に迎合したり、妥協することが出来ない。
そんな状態の彼の「心の旅」とも言える一週間が、色合いを抑えたくすんだトーンの映像で描かれていく。
彼の葛藤や心の渇きを吐露するような幾つものフォークソングが、ルーウィン演じるオスカー・アイザック自身によって歌われていく。
彼の曲の中で印象的なのは、冒頭とラストで披露される「Hang Me,Oh Hang Me」と「Fare Thee Well(Dink‘s Song)」。
また本作にはプロの歌手でもあるジャスティン・ティンバーレイクが重要な役で出演し、何曲も歌っているので嬉しい。
この映画は決して明るい作品ではなく、滅入るところもあるのだが、それを救っているのが、主人公のギター演奏で歌われるフォークソングと、彼の旅の友である虎猫。
この虎猫の表情や仕草が堪らない程キュートで癒される。
ギターと虎猫を抱えた心の旅の先にルーウィンは何を見出したのか?
その答えは、ラストの何か吹っ切れた彼の表情にあるような気がする。