空海花

ノスタルジアの空海花のレビュー・感想・評価

ノスタルジア(1983年製作の映画)
5.0
また少し日が空きました。
体調がとても悪い日が続き、現れようとしては消えていました🙇
やっとPC開いて何気なくセレクトしたのが
なぜかアンドレイ・タルコフスキー監督作品。
妙にがしっと今の心に決まりました。
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かつてのロシアからイタリアを放浪、危険を知りながら帰国し自殺した音楽家の足取りを追って、ソビエトからイタリアへ通訳の女性を伴ってやってきた詩人。病の悪化によりその旅も終焉。彼の郷愁と愛を描いた作品。

冒頭のシーンから美しい。
大地からの始まりに心が安らぐ。
教会や廃墟、無機質な宿に
繊細なモノクロームの色彩。
泉、雨、湯、霧。豊かな水の表現。
大抵は切り貼りになるそれを
どうして完璧なコンポジションとして連続して繋げられるのだろう。
言われるのは、絵画的、詩的、叙情的。
詩的映像美を絶賛された巨匠。

「ノスタルジア」というワード。
主人公を見て思うのは、「家に帰りたい人」という言葉。
心理分析としては逃避的な心理を表す。
スピリチュアル的にいうなら、家=宇宙
併せて端的にいえば、家=天。
生まれる前の世界に還りたい。

もっと単純に「ホームシック」とも言うが
旧ソ連時代を生きたタルコフスキーにとって
それは渇望、飢餓感にも似たもっと強烈なものであり、単なる逃避というのは配慮が足りない。
ソビエトの国をひとたび離れた時に襲われる感情を、彼は「死に至る病に近い」と語ったそうだ。
世界的評価も高かった彼は、比較的自由に国外に出て映画を撮影していたようだが
この映画の完成後、政府からの帰還要請を断って翌年に亡命する。
国家からの束縛との訣別と、一見相反する彼のノスタルジアとは如何ばかりであろうか。

ストーリーに重なるように現れる、妻や子供、家族の姿。
懐かしいけれどそれは思い出というより夢や妄想のよう。
夢で繰り返し見た懐かしい情景。
ここではないどこか。
おそらくそれは主人公だけではなく
すべてではないにしても
その時代のロシアを生きた芸術家の心象であるのかもしれない。
だから世界の終末を信じる狂った老人が
家族だけではなく、全体が救済されなければいけなかったんだと訴えるのではないだろうか。

主人公はタルコフスキー自身のある姿であり
真摯に老人との約束を果たそうとする姿は
宗教的な救済の精神なのだろう。
そう言うと一気に理解が難しいが
どうしようもなく絶望しそうな感情
例えば深い悲しみや怒り、孤独感といったものから救われるのは宗教と芸術しかない、と聞いたことがある。(どこでだっけ?)
映画や芸術を見て、魂が震えるような感動の体験ならばわかりやすい。
昇華と恍惚と言うと、気恥ずかしいけれど。
奇しくもタルコフスキー自身は、亡命から2年後に他界する。
自由をずっと見つめていたのに
通訳女性の誘いには乗れない。
空虚さの美的表現こそが彼の魅力であるのに
抑圧された情勢だからこそ生まれたものだという皮肉のように。

1+1=1という数学的解釈を排除した数式は
手の中の水滴であり、
数字で表すことも、分離することもできない感情や目に見えないものすべてとも言えるし
それは愛やその結果も含まれる。

監督自身はこの映画が完成した時
温かい泉に包まれることができたのか。
観た限り、私にはできたように思う。


2020自宅鑑賞5/73
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正直なところ、休業から完全に療養生活になりました。
体調の浮き沈みがかなり激しいです。
劇場が空いても以前の様に行けそうにないという絶望感😨
それでも行ける時を見つけて行くつもりですけどね😤

いきなり読み逃げちゃったりしてすみません。
でも浮いた時は出てきます🐹
でもまた急に沈むかもしれません。
しばらくこんな感じが続くと思いますが、
どうか変わらずお付き合いいただけると幸せです。
空海花

空海花