ハル

グランド・ブダペスト・ホテルのハルのレビュー・感想・評価

4.0

時は1932年、ヨーロッパの仮想国・ズブロフカ共和国。雪深い山々に囲まれたそのホテルには、ヨーロッパ中の貴族や上流階級の面々が訪れ、絢爛たる香気に包まれている。彼らをもてなすは、伝説のコンシェルジュとして名高いムッシュ・グスタフ・H。彼は完璧な職業人でありながら、軽薄で虚栄心が強く、何より女性に目がない。常連客のマダム・Dも、グスタフの色香に惑わされた一人であり、特別な感情を寄せているフシがあった。或る日、その彼女が何者かに殺され、変わり果てた姿で発見される。彼女は一族に伝わる「少年とリンゴの絵」をグスタフに譲ろうとしていた。状況証拠から殺人の嫌疑をかけられ、追われる身となったグスタフは、ベルボーイのゼロやアガサに助けられながら、ヨーロッパ中を奔走するのであった。 

監督は、「ダージリン急行」や「ロイヤルテネンバウムズ」でお馴染み、ウェス・アンダーソン。本作でも、その遊び心が余すところなく盛り込まれている。 

聊か拙い表現を許してもらえるなら、「テンポの速い紙芝居」といったところか。絵面が一々面白い。色彩、カメラワーク、人の配置など、どれをとっても完璧なのである。建物をどのように撮ればいいか、あるいは、人をどのように扱えばいいか、あらゆることを緻密に計算したうえの画面構成なのは間違いない。そこに笑いへのこだわりがあるのは明白である。 

「絵面を見せただけで笑いが取れる」 

そんな芸当ができるのは、世界広しと雖も、この監督だけである。このユニークな世界観を一人でも多くの人に味わってほしい。
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