TaiRa

クラッシュのTaiRaのレビュー・感想・評価

クラッシュ(1996年製作の映画)
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初見時の印象が「えろい」しかなかったので再見したら、やっぱ只々えろかった。

まずタイトルクレジットがめちゃくちゃカッコ良い。歪んだクロームで出来た文字が車の様に列を成してこちらへ近付いて来る。ハワード・ショアの音楽もクールかつ陰鬱で最高。全体の冷たいトーンにマッチした劇伴だった。この頃のクローネンバーグは、現実と幻想の境界が曖昧で分かりやすい混沌を描かなくなってる。主観と客観がハッキリしているので、客観に徹した今作は超現実的なビジョンもない。単に、交通事故とその果てにある「死」に快楽を求める人たちを観察するだけ。一般的な価値観を持つ人間が登場しないし、映画の視点もそんな価値観を登場人物に当て付けたりはしないので、最初から最後まで観客を取り残した異常性愛が続く。それでも物語の中枢には愛を模索する夫婦が置かれており、ロマンチックなメロドラマの精神も感じられる。人体の傷痕をはじめ、車体の傷、事故による人体/車体の破壊そのものへの即物的なフェティシズムが満載で、そのエロスとタナトスの混濁がまさに「えろい」と言える。一方で事故描写は常に呆気なく、場合によっては映りもしない。その距離感がクールな印象を与えるし下品にならない所以。車の走行それ自体は格好良く見せているのが印象的。特に夜の場面は、その色気と相まってなお良し。
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