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クラッシュのmasayaanのレビュー・感想・評価

クラッシュ(1996年製作の映画)
4.0
『クラッシュ』と言えば、アカデミー賞を勝ち取った『クラッシュ』の方が有名で、人気も高く、また「社会について考えさせられる」映画であった。僕が「極めて『ローリング・ストーン』誌的な映画だ」と言う時は、この「社会、特にアメリカ社会について考えさせられる」ということを指している。アカデミー賞の方の『クラッシュ』において、路上でクラッシュしたものは何だったか。それはアメリカだった、端的に言えば。

しかし、デヴィッド・クローネンバーグの方の『クラッシュ』でクラッシュしているものは何か。それは・・・間違っても社会や人種間対立のメタファーや引き金ではない。交通事故で事故死した著名人の事故を再現することに取りつかれた秘密結社が重視するのは、劇中でも「細部が、細部が」と何度か強調されているとおり、細部までこだわり抜いた物理的な/性的なクラッシュそのものである。

「いま、画面の中では交通事故が起きた」とか、「いま、画面では男女がセックスしている」といった、映画にありがちな状況をそれと伝わるように説明できれば満足、というようなカットは一つも採用されておらず、交通事故であればどのように人が車体の中で潰れ、どのように車体が損傷したかが、あるいはセックスであればどのように愛撫し、陰毛がどのように生え、人がどのように快感を表現しているかが詳細に描かれる。嫌いでは・・・ない。
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