陳知春

アイ・ウェイウェイは謝らないの陳知春のレビュー・感想・評価

4.5
「アートは人間の価値を認め、 より深く、そして、より広くコミュニケーションをとるための架け橋なのです」と彼がインタビューで答えていたが、この一言にこのアイウェイウェイという作家性が全て凝縮されている。

彼を、中国というちょっとした全体主義国家に抵抗する民主主義の体現者と、先進国的な視点で見做すこともできるが、彼が戦っているのはそんな陳腐なものではない。
彼が戦っているのは、私達人間同士を繋ぐ絆であったり、子供や家族を想う優しい感情を、壊しにかかる人間が編み出したシステムや体制そのものである。

ラスコーの洞窟が明らかにしているように、私達人間と、なにかを絵にして表現して伝えたいという欲求は切り離せれるものではない。私達が言語以外にも音楽や美術というコミュニケーションを持つのは、私達が言語だけでは繋がれず、むしろそういった手段によって共感性を生み出し繋がっていたいという人間の本質があるからである。

アイウェイウェイが彼の芸術を通して、問いかけてくるのはそういったテーマだ。つまり、システムの犠牲になったものの痛みを伝え、体制そのものの滑稽さを皮肉を交えて表現する。それはランドセルと無数のひまわりの種、また中国王朝の壺をあえて破壊する、文化革命を皮肉ったデモンストレーションや、「草泥吗プロジェクト」などにそれぞれ象徴される。特にこの後者に属する彼の作品は、ともすればシステムのうちに無意識に乗っ取られ、全体の一部分として機能してしまいがちな私達人間を、皮肉やちょっとした笑いを交えた彼の表現方法によってふと我に返れらせることができる。彼がユーモアを忘れないのもそれが理由だろう。全く意味のない理論を構築して、アート市場で自分の作品が幾らで売れるかしか考えてないような、まさにそれこそ資本主義というシステムの奴隷になっている多くの鼻高現代芸術家たちが、アイウェイウェイを見て一体何を感じるのだろうか。

この映画を観ると、多くの中国人が彼の支持者として応援していることが分かる。長いものには巻かれろ的な某国とは違い、ここまで強く党が支配しているにも関わらず、それに抵抗しようとしている多くの人の姿が、この中国人という人々の気骨の太さと、人間性の深さを示しているのではないのだろうか。

勇気を貰える映画です。
超お勧めです。
陳知春

陳知春