あまのかぐや

キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャーのあまのかぐやのレビュー・感想・評価

5.0
アベンジャーズ・エンドゲーム公開から1ヵ月が過ぎましたが、喪明けじゃないけど、だいぶ回復してきた。けど、ふとやっぱり思い出すと気持ちがよろよろとなったりもします。ナターシャ……キャップ…( ; ; )

しかし、この先、観たい映画が目白押しですから、そろそろ前を向かないと。フィルマーク復帰はなにを書こうかと思ったのですが、これです。「エンドゲーム」公開前に、マーベルシネマティックユニバース私的総浚いをやったのですが「好きすぎて無理」とスキップしたこれ。2014年公開、MCUのシリーズの一つのヤマ。エンドゲームを観るうえではとても重要な作品でしたね。これを見たと見てないとでは大違い。

すきなところ書くだけで、まただらだらと長くなってしまいそうな気がしますが、とにかく全部好き。もともとポリティカルサスペンス、いわゆる「陰謀もの」「政治の闇」とか「黒幕をあばけ」とかといったワードが大好物なのです。シールドとかヒドラとか、赤毛の女スパイとか、ニック・フューリーとか、ロバート・レッドフォードとか…、もう「陰謀ネタ」が似合いすぎる組織とかキャラクターだらけ。この作品からルッソ兄弟が監督しているとのことですが、監督もだけど、脚本の人たちを称えたい。これは絶対に小説で読んでも面白いはず。

さらにはみたことのないような目が離せなくなるような洗練されたアクションの連続。まず冒頭の、キャップとナターシャ含むアタックチームによるレムリア・スター号の奪還。甲板で傭兵とOne on Oneで対峙したとき「盾だけが頼りか?」と敵に煽られてヘッドアーマーを脱いだキャップにハートを撃ち抜かれたました。なんてきれいな顔なんだ、と…いや、顔だけじゃなくて!身体じゃなくて!自分の力と正義感に裏打ちされた魂の清らかさがその表情に現れていて、こんなきれいな人だったのか、と印象深かったのを覚えています。

そのあとフューリー長官の車が街中で襲撃されるシーンとか、高速道路上のバトルとか、エレベーターバトルのシーンとか、ラストの空から落ちるヘリキャリアの中での一騎打ちとか…もう全部好き。どうやって撮影しているんだろうか、キャップの動き・相手の動き、すべて「キメ画」になっているのが素晴らしくて、何度で見返したい。「ダサ」と思っていた盾を使った攻めのアクション。赤い星付きの派手派手な盾、大好きになっちゃうよね。ヴィブラニウムという想像上の物質がまさに実在しているようにように思える。破壊力もだけど、中華鍋を落としたときみたいな「ガイーン」って金属音が好き。

シールド仕様の濃紺のステルススーツのイケメンっぷりを見せつけた後に、レトロな星条旗風アーマースーツ姿(博物館の展示からパクった)を見せて「やっぱりこっちも好きっしょ?」と改めてこちらに問いかけてくる。やっぱり好きです、はい。と、この時点ではなるよね。ならないではいられない。

キャップのアクションを邪魔しない、別方向から動的なかっこよさで言ったら100点満点のエージェント・ロマノフと、初登場ファルコンも見せ場たっぷり。On your left。ストーリー、アクション、キャラクター、映像…、どれをとってもけちつけようがない。ここまでのMCU第一位にこれを上げる人が多いものわかります。

さらには70年前のキャップの初恋の行き着く果てに涙し、また現代にきて隣人とのほのかな恋のおはなしまでも詰め込んで、これらは「シビルウォー」や今回の「エンドゲーム」を観るうえで、なくてはならない重要なシーンでした(と思いたい…)。

いま改めてジャケットビジュアルを見るとキャップ、ナット、フューリー、ファルコン、でロバート・レッドフォードなんですよね。で、タイトルの「ウィンターソルジャー」ってなんぞ?となるのですが。ベトナム戦争の話やウォーターゲート事件など、そのような「アメリカの暗部」といわれる事件をちょいちょい覗いてみると、この作品の多重構造が良くわかると思います。いや面白いね。

戦時中に死んだと思われた親友との再会、これが作品中の柱になっています。まちがいなくこの作品で株をあげたのが、元親友でこの映画では無機質に光るメタルの腕を持った暗殺者ウィンターソルジャーとして登場したバッキ―でしょうね。フューリーの車を襲撃したのもこの人で、ひっくり返った車の中からフューリー視点で見た、前方から近づいてくる異形。こいつ絶対やばいやばいやばい、ナイフや、キャップの盾を使っての戦闘シーン。銃を構えたときの絵になる構図とか、顔を見せないうちから、インパクトあり過ぎで、なんなんこの敵?!と何度も思いました。実際マスクが落ちて素顔をみたキャップが「バッキー?」と声をかけた時、あの親友と結びつかず、こちらとしては「はてどちらさんでしたっけ」となりました。確かに常人より数倍の美貌をもつバッキーでしたが、あの風貌になっても70年前に別れたきりの親友ってわかるってすごくないですか?(でもバッキーも戦時中に捕虜になった時、助けにきたスティーブの容貌がもやし少年からマッチョな軍人に変わっていてもすぐわかったもんなぁ、どっちもどっちか)

バッキーはこのあとMCU作品中、いろんなところでちょいちょい目にするのですが、そのたびに風貌がガラッと変わって、それにしては彼のキャラクターに説明補足がすくなくて、毎回「どちらさんでしたっけ?」とつまづく。で過去作を振り返って「たしかめ」をしてるんですが、そのたびにバッキーのキャラクターが厚塗りされていって、今じゃメインキャラをしのぐ勢いでバッキー派です。とくにこのウィンターソルジャー姿をみたあとに前作「ファーストアベンジャー」でのバーンズ軍曹の雄姿を見返すといろんな意味で感情が爆発します。

これだけの要素を詰め込んでるのに中だるみもなく、最後は見事なヒーロー着地と思われるエモいシーンでまとめ上げたあとの、鳥肌立つようなかっこいいエンドロール。その後のおまけで次回作へ繋ぎまで(ロキの杖と、ワンダとピエトロでした)


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ここからは「アベンジャーズ・エンドゲーム」の話をします。

サービスカットのように盛り込まれたキャプテンアメリカシリーズのセルフ・オマージュ。1度目は「ひいぃ」と咽び泣きながら、二回目は「これこれー」とニヤニヤしながら…そして何度も見返すうちに、キャップの人生について思いを馳せるようになってきました。

キャプテンアメリカことスティーブ・ロジャースは、何度も何度も、それこそ蝶々の脱皮やゴジラの変異をみているかのように、映画ごとにいろんな顔を見せてくれました。前作「ファーストアベンジャー」の1940年代ブルックリンのやせっぽちの青年が超人血清を投与してヒーローとして生まれ変わり、さらに70年を経て現代に再度生まれます。

このレビューの冒頭にかいたレムリア・スター号での戦いでヘッドアーマーをとった彼が見せたまっすぐなまなざし。ただ清らかなだけではこんなにキャップ好きにならなかったと思います。

信念や価値観が揺らぐような、目の前の現実がすべてひっくり返るような事がつぎつぎに起こり、氷のなかから70年来の眠りから覚めた男は現代の洗礼を受けるのでした。超人血清を入れて強化されたキャップの本当の武器は、長い時代に翻弄され、時間と世代、世の清濁を併せ呑み、超人血清投与以上にアップデートされていった魂だったのだな、とわたしは考えています。

思えば、強靭な体、力、清廉なこころを持っていても、彼はどこの時代にいても合わない常に生きにくさを感じていたんじゃないかな、と思います。生きにくさなんて人間だれしももっているものだけど、彼のもってうまれたもの、他の人が辿ったことのない数奇な運命を鑑みるに、それはそれは深い孤独を抱えた人生だったんじゃないかと思います。

キャップは6つのインフィニティストーンを時代時代に返したあと、どんな旅をしてきたんでしょうね。多くを語らないままスティーブ・ロジャースとして退場していった彼ですが、たぶんにこれも孤独な旅だったんじゃないか、と改めて思いました。もしかしたら最愛のひとたちに囲まれて見送られたトニー以上に。

だから、キャップの本当のハッピーエンドは、旅を終えて彼のホームであるバッキーとサムの元に、スティーブ・ロジャースとして帰ってきたところにあるんだ、とわたしは考えています。キャップお疲れ様でした。

もうこの先、(クリス・エヴァンスの)キャプテンの新しい活躍が見られないと思うと悲しくて、大好きだったこの作品も、もう二度とみらんない、なんて思っていましたが、こうして改めて好きなシーンを書き連ねていくと、やっぱり何度も観たくなる気持ちを思い出します。エンドゲーム公開後に、過去作品が見たくなる人がたくさんいて「このひと好き」「こんな作品もあったのね」って声が周りから聞こえてくるととてもうれしい。

この先、サムとバッキーが中心のドラマシリーズができるそうですね。盾を持たなくなっても世界を守らなくなっても、ただのおじいちゃんというには魅力的すぎる人間=スティーブ・ロジャースの平穏な日々の様子もチラチラ感じさせてくれたら、ファンとしてはこのうえなくうれしいですね。
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