ひでやん

鑑定士と顔のない依頼人のひでやんのネタバレレビュー・内容・結末

鑑定士と顔のない依頼人(2013年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

閉ざされた扉越しに抱く猜疑心と好奇心。

孤独な美術鑑定士の元に、 両親が遺した美術品を査定してほしいという依頼が入り、クレアと名乗る依頼人の屋敷を訪ねるが、依頼人は一向に姿を現さず…。主人公の鑑定士は潔癖症で女性恐怖症、偏屈で頑固な気難しい中年男だが、なぜか嫌いになれず感情移入。

約束を破り、謝り、また破るクレアに苛立ち、気付けばヴァージルと一緒に振り回されている自分がいた。胡散臭いと思いつつ、ミステリアスな存在に惹かれていく。心の距離が近づいたかと思えば離れ、積み上げたかと思えば壊れる信頼関係。そして、ついに姿を現した時、なんだ、本当にいたんだというガッカリな気持ちと、予想外の美しさに違和感を覚えた。

なのに、年甲斐も無く若い女性に恋をするヴァージルを見ていると、あいみょんが頭に流れた。「この恋が実りますように」って、もうなりふり構わぬ裸の心。彼の恥が、彼のみっともなさが愛おしくなった自分もクレアに敗北。心の歯車はぶっ壊れ、ムカつくけど好きっていう悔しい感情だ。そう思わせる展開が実に巧い。

ぶつぶつと呟く謎の数字が気になり、思考の真ん中に置いてみたが、意味が分からず隅へ追いやる。レーザー光線のセキュリティ並に伏線が張り巡らされているが、それを突破しちゃった自分はラストで驚愕。茫然自失となったジェフェリー・ラッシュの表情がたまらない。身も心もすっからかんのからっけつはあまりにも惨め。

不正落札の肖像画コレクションを唯一知っていた相棒のビリーが黒幕だろう。バレリーナの裏にサインを残して去るビリーはしてやったり。仲間を集めて繰り広げたビリー劇場に完敗。ヴァージルは悪人なのでバチが当たった、クレアに惹かれて自業自得という気持ちもあるが、憐れむ気持ちはそれ以上…。
 
「いかなる贋作の中にも必ず本物が潜む」

その言葉が意味するのは、偽物だらけの中にある真実の愛だと思っていたが、「ナイト&デイ」というレストランが実在した事により、ヴァージルに語ったプラハの話が唯一の真実で、彼女の愛は幻に思えた。2人はきっと再会できたと思いたい。
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