トンボのメガネ

進撃の巨人 ATTACK ON TITANのトンボのメガネのレビュー・感想・評価

進撃の巨人 ATTACK ON TITAN(2014年製作の映画)
2.8
三浦春馬の追悼の意味を込めてAmazon primeでようやく鑑賞に至った。
真価を問うには劇場で見る必要がある作品だと感じたので、評価のスコアは少し多めにつけている。

率直な感想を言えば、それなりに楽しんで観ることが出来たが、他人に勧めたいと思える映画ではなかった。

実写化すると知った時点でかなり懐疑的ではあった。重厚なテーマを扱っている原作で、あそこまでクオリティの高いアニメーションが作られている作品の実写化だ。
たとえハリウッドでも満足のいく作品になる可能性は極めて低い。
まして日本でまともに作れるとは到底思えなかった。アニメのファンとしては、劇場に足を運ぶのは危険な予感がして思い止まった記憶がある。

そもそも原作ファンを満足させるのは無理ゲーだと作り手なら容易に想像が出来たはずで…大規模な企画を立ち上げた代理店は監督探しにさぞかし苦労したことだろう。

そこで勇敢にも引き受けてしまったのが樋口真嗣氏で、蓋開けてみれば趣味全開のB級パニックホラーコメディに仕上がってしまった。

今回の鑑賞は追悼の意味合いが大きいため最大限に良いところを探す姿勢で臨んだ。
結果、絶叫と爆笑に包まれた。

特撮の巨人が出てきた瞬間、あまりの衝撃に込み上げる笑いを止めることが出来なかった。
ベチャベチャー!グチョグチョー!とグロイ食人シーンにヒィィ!と目を覆い、巨人が暴れる度に悲鳴と爆笑を繰り返した。

中でもリヴァイ兵長のパロディであるシキシマの滑稽さは際立っており、まんぺいさんの演技に思わず唸ってしまった。
恐らく、完成図にいち早く気づきコメディと理解して演技していたのは彼だけだったのではないだろうか?ワイヤーアクションの型の面白さはピカイチで、強くこちらに訴えかけるものがあった。

この作品は、トッドフィリップスがジョーカーでやっていた隠れコメディを先取りしたトリッキーなチャレンジ作なのかもしれない。

日本で進撃の巨人の実写化をしろと言われれば、中途半端なCGを使うくらいなら特撮しかないのは分かる。
監督にとって勇敢なチャレンジではあるが、敢えて言わせてもらうと無責任な受諾にも感じた。

なぜならチャレンジによるリスクの代償は、監督一人が背負う傷ではないことが理解できていなかったのではないか?と感じたからだ。

役者達がどんな気持ちで本作の宣伝行脚を行なっていたことかと、追悼の勢いで思わず監督への批判を書いてしまったが…

本作に携わった感想を三浦春馬氏が最後の舞台挨拶で真摯に応えている映像YouTubeで見つけた。
関係者に向けられた愛情深いコメントを受けた監督が号泣している姿を見て、これ以上批判めいたことを言うべきではないと思った。

調べてみると、実写化の発表はアニメ化の前に行われており、想定外のアニメーションのクオリティの高さは不運だったかもしれない。鰻登りのアニメの人気と比例し、肥大する重圧に押し潰されながらの現場は想像を絶する。
よくぞ最後まで完走しきったと作り手に拍手を送りたい。

本作は、進撃の巨人をパロディにした特撮パニックコメディとして見れば、かなりの力作だ。
ワイヤーアクションや特殊メイク、背景美術にも血の滲むような労力を感じた。
脚本の難点は否めないにしても、原作と違うからと言って切って捨てるには忍びない感情が湧いた。

もっと予算を抑えてコメディに振り切れていれば…宣伝の仕方も変わり、ここまで酷評されることは無かったのではないかと悔やまれる。

評価的には苦い結果ではあったが、プロフェッショナルな連携プレイで制作費を興行収入で清算出来たことはある意味見事であったし、その後の数々の名作を生み出すキッカケになったと捉えればマイナスばかりではなかったとも思える。

監督の次作となったシン・ゴジラ の評価は周知の事実であるし…三浦春馬氏が本作後に力を注いだ舞台、キンキーブーツの彼の輝きは尋常ではなかった。

とは言え、日本の制作現場の弱体化が浮き彫りになった本作の問題点はいったい何だったのか?
日本のエンタメ特有の代理店と芸能プロダクションとの歪んだスクラムによるプロジェクトの立ち上げ方が問題の一つとして思いつくが…

一番の問題は、日本の観客の未熟さが根幹にあると言うことを反省する必要があると感じた。なぜなら本作の黒字化の裏には酷評をしている観客達の犠牲があるからだ。

エンタメは観客に楽しい魔法をかけてくれるものだが、魔法の裏にある労力と現実をもっと知っておくべきなのだ。
そうすれば、犠牲による未熟な批判から興行成績という形の正当な批評へと進化できるのだろうと思う。

個人的な好みの感想を一つ言うと、本作のYahooにおける一番人気のレビューを見た時に声を出して笑ってしまった。
酷評であっても、あれくらいのユーモアな文才があれば、それも大切な作品の一部のように思えた。