JIZE

ぶどうのなみだのJIZEのレビュー・感想・評価

ぶどうのなみだ(2014年製作の映画)
3.3
"ぶどうの木は冬の間は雪の下でひっそり眠ってるんだ。でも春になると雪解け水を一杯吸い上げて小さな枝から一雫の水を落とす,その雫を"ぶどうのなみだ"って呼ぶんだ。"...北海道の空知を舞台にワイナリーで営み小麦を栽培する年の離れた兄弟とキャンピングカーに乗り突如来訪する1人の女性との交流から人間厚生までが過去に傷を抱える登場人物たちの奥深きエピソードと共に哀愁味溢れ少しファンタジック的に描かれます。

結論から申し上げますと...自然豊かな北海道の壮大な大地や彩られる様々なワイン,食材,ぶどうの実等は勿論魅力として十分ですがアオやロク,エリカの過去の後悔(妄念)とワインに宿る苦味(馬鹿みたいな情熱&抜けるような空の味)とをメタ的に投影させた構成が物語の苦味を噛み締める上で相関的に噛み合い粋な演出を促したように思う。要は悲しみや苦しさが多ければ多い程,より人間らしく堅実さを増しワインに至っても同様,発酵させる為に光を遮り日の当たらない場所で長期に渡り保存する。要は,時間を費やせば費やす程,旨味も増大し稀少性の高いワインに生まれ変わる。ぶどう木からなる"赤ワインの苦味"と登場人物たちが抱え悩む"過去の歪み"を混ぜ合わすメタ的に投影させた構成が心底粋!!でした。

他物語でも,主人公アオは元々,常任指揮者として大舞台で活躍をするが若くして突発性難聴を発症させた事から音楽業界を辞め以前パリの演奏公演で飲んだワイン"ピノ・ノワール"を音楽同様に人々を幸福にするモノと解き自身の再生をかける,設定もやや転職の段階で技量に対し無理やり感は否めないがひた向きな真面目さが人前で笑顔を垣間見せない分,突き抜け物語上でも唯一ロジックのズレを修正し正気を保つ人間として良かった。エリカが最初畑に来た際に不法滞在者だ!と大声で警官を呼ぶ場面は笑えました。あと「ぶどうとして1度死んでワインとして生まれ変わる。ワインは荒れ地の方が良く育つ。」とエリカに対し初めて心を開く瞬間はアオの優しさが垣間見た気がします。ロクの誰に対しても心を開きアオを影で支える弟気質も優しげな透明感を感じさせアオの兄弟というより相棒設定の方が役柄的にシックリきてたんじゃないかな。エリカに対しては母親を憎む点でアオとの相関性を出し過去のある地点でお互い歪み傷を治癒し合う。北海道or空知の農場が2人の傷を癒し包み込むようにも俯瞰的に思えました。

演奏隊を警官や郵便屋,他少数で構成し荒れ地に向けて音色を放つ数々の場面さ当初?という疑念を抱きましたが色んな意味合いが後々で発覚する事を踏まえれば納得。終盤の大雨も要するにそういう事でしょう。。まぁ警官や郵便屋が本来の業務を投げ捨てワイン飲んだり演奏したり無駄話したり,収穫祭に参加したりと永遠に遊び呆けるって展開は常識的にどうなの。。と思いましたが,ファンタジックさがあればALLOK!!なんでしょう。光景的には不思議過ぎましたが。背景に流れるラテン調なBGMと共に世界観は実に摩訶不思議に装飾されてました。

他面白面では後半70分以降の展開がわりかし会話なしでほぼ景色や呟き程度のアート感。ER間際,アオとエリカが大雨が降りしきる中,何故あの行為⁉︎とか。明確な悪役がいないのも抑揚を促す上で否めなかった。1番の疑念はエリカを受け入れる周囲の許容スピードの迅速さですが。ここでつまづくと確かにお話自体はどんずまり状態ですね。

従い,主演大泉洋の熱演(特にぶどうのなみだ由来を説明する描写)は意外にもハマり役で違和感なく鑑賞出来ました!!エリカが乗り回すキャンピングカーで旅するぐらいしてれば評価的にもっと点数は上昇してたのは間違いない。フード描写の控え目な提示は自然を題材に展開するお話として個人的には勿体無い!!と感じました。主演3人が今大人気の俳優なのでキャスト1本掴みで鑑賞するのもあり!北海道の空知見たさに鑑賞するのもあり!スローライフに憧れを抱く人が鑑賞するのもあり!ありあり尽くしの見所が四方八方に存在する人間ドラマだと思います。悲しみ苦しむ程に,ワインや人間はより味わい深く熟成されるんです。ぶどうの木から育つ赤ワインの苦味と静寂なひと時をじっくり堪能し味わって下さい,お勧めです!!
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