April01

インセプションのApril01のレビュー・感想・評価

インセプション(2010年製作の映画)
4.2
階層構造になっている夢、という設定の中にスパイアクション要素を盛り込んでいてとても面白い。
一方で、ディカプリオ演じるコブとマリオン・コティヤール演じるモル夫婦そして家族の描写に複雑な愛の形を見ることができて深い。
以前観た時は、その関係性がセンチメンタルすぎると感じたし、なんなら邪魔だなくらいに思っていたけれど、再見したらとても切なくストーリーの核になっているという気づきがあり哀しさすら覚えたから不思議。

ポイントは記憶の再現。
そして夢の中で記憶の再現をすると、「そこが現実か夢か」で混乱が生じるという点。
この混乱に囚われてしまったのがモル。
1つの場所で孤独にずっと仙人のような生活を送っていたら、記憶の再現というものは1つしかなくて、再現しても何の感情も湧かないかもしれない。
けれど、作品内で描写されるように生まれ育った生家、コブと出会い住み始めた町と家、子供が出来て新しい家族として引っ越しスタートした生活空間、こういう歴史を夢の中に再現してしまったら、その世界に埋もれたいと思う気持ちに囚われるのは自然なこと。
例えば、昔住んでいた街の近くをたまたま通りかかって、あの時はああだった、あの場所でこんな事、あんな事があったと思い出すことはよくあるし、その時にそばにいた家族や友人や特別な人の事を想い気持ちが揺れることもある。極端に言えば、あの頃にあの場所に戻りたい、時を戻したい、とすら思うかも。
それが夢の中で出来てしまったら・・・嬉しいけれど、戻らなければならない現実がある以上、夢か現実かわからなくなったら最悪。

その状況を作ってしまい、解決しようと結果として誤った手段をとったコブの自責の念は当然だし、一生苦しんでいいよと悪魔的な気持ちすら湧くけれど、作品内で彼の行動を貫くたった一つの動機が「子供の元に戻りたい」ということだから、親としての責任を果たすことが贖罪になるという救いも感じる。

ジョセフ・ゴードン=レヴィット演じるアーサーがモルのことで懸念を示す様子に、仕事に支障が出るのを恐れるプロフェッショナルなパートナーでありながらも長い付き合いの中で築かれた人間的なつながりが垣間見えるし、
特にこの問題を直視し解決しようとするのがチームに加わるまだ若い女子学生、共感性と想像力と情緒豊かに見えるアドリアネ、さらに救い主としての彼女を提供するのが他ならぬモルの父、すなわちコブにとっては義父にあたるマイケル・ケイン演じる、その道の権威たる教授なのだ!という人間関係の配置も上手。
何気にモルの母(教授の妻)までも電話越しに登場し、さり気なく夫婦そして家族の形をこのとんでもないSF構造の中に描いているところに気持ちが寄り添う。

ノーラン監督、とても冷徹なスキのない、いわゆる男性好みのリアリストっぽく押してくる反面、どこか女性に対する優しさと理解と愛が感じられ、そのバランス加減がとても絶妙。

それにしてもこんな脚本を書けるのは常識を超えた才能と思ってしまうし、一言でいえば、この人の頭の中に入ってみたい!
April01

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