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そして泥船はゆくのRONのレビュー・感想・評価

そして泥船はゆく(2013年製作の映画)
4.8
「プールサイドマン」で東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門のグランプリを受賞し注目を浴びた大田原愚豚舎・渡辺紘文監督のデビュー作。北関東の地方都市に生きる若者の痛くてリアルな現実を描くモノクロームのコメディー映画。主人公は今や日本映画界に欠かせない存在となった個性派俳優・渋川清彦が演じる36歳のどうしようもない無職の男。(これが渋川清彦の初主演映画らしい)
娯楽といえばパチンコ、ゲーセンにカラオケとボウリング、ナンパする場所といえばTSUTAYA、やることが何も無く、時間を持て余し、喫茶店で求人雑誌をいい加減にペラペラとめくり、深夜になれば腐れ縁の友達と一緒にカーセックスをしているカップルを探すためドライブに出かけ寒くて風邪を引く(笑)。仕事はなく、探す気もなく、別れた妻には養育費を払い、会いたい娘には会う事も許されない。家には年老いた祖母もいる。
直面している現実は厳しく絶望的なものなのに、それでもなんとなく生きていけてしまう男の日常は、決してドラマチックな展開をみせたりはしない。死んだ父親の隠し子いう家出娘が訪ねてきたところで、男の生活には何の影響もなければ変化も無いし、震災やその後の原発関連の問題も、偽善的にハンカチを押し売りに来る新興宗教の信者も、日本を変えるのだと息巻いて市議会議員を目指し得票のために友達でも無いくせに友達ヅラする同級生も、テレビから流れてくるイベント化した国会前のデモも、渋川清彦演じる主人公を変えることは決して無い。沈み行く泥船のような日本という国を誰も変えることができないように、色の無い灰色日常は大きなドラマや劇的な出来事や事件が何も起きないまま、ただただ気味が悪いほど淡々と決められたルーティンワークのように繰り返されてゆく。
映画全体を粉々に破壊してしまうような後半の予測不可能な展開にはかなり面食らったが、この清々しさはなんだろうと思うぐらいある種の衝撃的なラストは気持ちよく笑えた。傍若無人だが愛嬌たっぷりでどこか優しさが見え隠れし、なんだか憎むことができない主人公演じる渋川清彦が実に魅力的で素晴らしく「お盆の弟」「下衆の愛」と並び、彼のキャリアの上でも最高峰の大名演をみせている。おばあちゃんも、家出娘役の若い女優さんも、主人公に振り回されるお人好しの友人役の俳優もとても良い。
東京での再上映期待します。