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ホドロフスキーのDUNEのSのネタバレレビュー・内容・結末

ホドロフスキーのDUNE(2013年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

2021/10/30 DVD

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督最新作『DUNE/デューン砂の惑星』の背景について、最低限の知識があればもう少し楽しめたのではないかと痛感し、順番が逆になってしまったが改めて本作を鑑賞した。

「DUNE」とは、アメリカの作家フランク・ハーバートによるSF小説のシリーズ。第1作『砂の惑星』(1965年)の人気を受け、続編が執筆され『デューン砂丘の大聖堂』(1985年)を最後に著者ハーバートが1986年に死去したため全6作のシリーズとなっている。
出版直後から幾度も映像化が構想されたが、その壮大なドラマの製作は困難を極め、多くの人が挫折し、その中で最も有名な‘’幻の映画‘’と言われたアレハンドロ・ホドロフスキー監督版。
制作決定から2年半の準備を経て撮影を前に、巨額の製作費により中止に追い込まれた。

今作ではホドロフスキー監督自身とプロデューサーのミシェル・セドゥ氏、制作チームの一員だった方々、ニコラス・W・レフン監督などの回想によって、『ホドロフスキーのDUNE』に関するキャスティング、美術、音楽など多方面へのアプローチなど、2年半で綿密に準備された膨大なスケッチと絵コンテを元に振り返る。

‘’人生のゴールとは何なのか?自分の魂を昇華させること。私にとって映画は芸術だ。ビジネスである前にね。絵画や小説と同じように人間の魂を深く追求する。それが映画だ。‘’と、「DUNE」の預言書まで作ろうとしたほどに、この映画にかけたホドロフスキーの情熱と思い、制作中止から40年以上経た80代半ばにしても衰えぬ狂気に圧倒された。

「DUNE」における世界の象徴である‘’スパイス‘’を、60年代の象徴であるドラッグと見立てた精神性と哲学が、密接に共存する壮大なSF世界である。
ホドロフスキーが取り憑かれるようにDUNEに拘る思いが本作を見ると分かり、彼の描いた精神世界の宇宙であるDUNEを見てみたかったという叶わぬ思いが溢れ出した。

キャストはデヴィッド・キャラダイン(レト侯爵役)、『エル・トポ』に出演した息子ブロンティス・ホドロフスキー(ポール役)、サルバドール・ダリ(銀河帝国の皇帝役)、オーソン・ウェルズ(ハルコンネン男爵役)、人気絶頂のミック・ジャガー(フェイド・ラウサ役)、ウド・キア(メンタート ピーター役)、
サウンドトラックは、アルバム「狂気」を発売したばかりのピンク・フロイドをメインに、フランスのプログレ・バンド、マグマ(ハルコンネン男爵の惑星の音楽)という大御所を含めた出演が決定していた。

絵コンテの担当は、当時のフランスで最も有名なバンド・デシネ作家のジャン・ジロー。作家名をメビウスに改め絵コンテ3000枚を驚くほどの速さで描けたそう。完成した絵コンテを繋ぎ合わせた映画撮影は既に済んでいたそうで、彼の絵のタッチはキッチュで60年代的な雰囲気。
メビウスと共にLAまで赴き、ハリウッドの特殊効果の巨匠ダグラス・トランブル(代表作『2001年宇宙の旅』)に会いにいくも、彼と精神性が合わないと感じホドロフスキーが断った。その後に、ハリウッドの小劇場で上映していた『ダーク・スター』を見て、ダン・オバノンに改めて特撮を依頼。
宇宙船のデザインは、イギリスのSF小説の表紙を手がけていたイラストレーター、クリス・フォスが担当。ホドロフスキーのイメージである生物的宇宙船を元に、海洋生物のようにグロテスクなまでの配色と大胆なデザインが特徴的。
悪役ハルコンネン男爵の美術は、ダークでゴシック調のスイス出身のアーティスト、H・R・ギーガー。

無事に制作されていれば、あの『2001年宇宙の旅』を超えたとも言われ、『スターウォーズ』『レイダース』『ターミネーター』などのSF映画に影響を与えた模様。
実際に劇中にて公開される膨大なスケッチと絵コンテで製本された世界に二冊しか存在しないという『ホドロフスキーのDUNE』本で確認することが出来、キャラクターの造形や、シーンの構図がここから模造されたと思われた。この本をホドロフスキーから直々に見せて貰えたニコラス・W・レフン監督も、素晴らしかったと語る。
制作チームのH・Rギーガー、メビウス、フォスは後に集結し『エイリアン』を制作したりなど、『ホドロフスキーのDUNE』が、後世に与えた多大な影響が明らかとなっている。

1984年に初めて映画化を成功させたのはプロデューサー・ディノ・デ・ラウレンティスで、監督デヴィッド・リンチ自身が認めているように、この壮大な世界を2時間で収めるには、充分な内容に仕上がっていたとは言い難いという。
本作でホドロフスキーは「リンチ版が公開された当初は、精神的に落ち込んで観に行くつもりはなかったが、息子に促されて足を運んだ劇場で観た。映画の出来の酷さに、才能あるリンチがこんな駄作を制作するはずがない。全ては制作者のせいだ。」と断言した。

2021-312
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