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パラダイス 愛のnetfilmsのレビュー・感想・評価

パラダイス 愛(2012年製作の映画)
3.7
 50代のシングルマザーであるテレサは、一人娘のメラニーを妹アンナ・マリアの家に預け、ヴァカンスを過ごしにケニアの美しいビーチリゾートへやって来た。冒頭、オーストリア時代の彼女の生活がほんの少し出て来るのだが、普段は知的障害者の施設で働いているらしいことがわかる。娘とは常に折り合いが悪く、ろくにコミュニケーションも取れていない様子が提示され、第1作目として母親・叔母・娘が初めて同じ場所に一瞬だけ集う。パラダイス3部作の中では、今作が最も絵画的なショットの美しさに溢れている。青い海や白いビーチを背景に、色味を活かしたシンメトリーの構図はただただ美しく活気に満ち満ちている。室外撮影の大半はおそらくエド・ラックマンによるものだろう。それに対し、室内撮影はドキュメンタリー出身のヴォルフガング・ターラーが担当し、手持ちカメラで臨場感溢れる映像を生み出している。2人のカメラマンを並列で起用したことが、最も明確に戦略として立ち現れているのが今作である。風景に溶け込むような絵画的な構図や色味に対し、対照的にどこかブレながらも機動性を重視した映像があることで、物語が独特の語りを生んでいる。

 ヨーロッパの女性がアフリカのリゾート地へ行き、現地の男性を買うなんてことはあまり考えたことが無かった。ただ調べてみると、「Sugar Mama」というスラングがあるらしい。これは字面でも大体わかるように、アフリカ人にとってのパトロンのことを意味する。まさにこの映画の中に登場する経済力のある大人を「Sugar Mama」と呼ぶのである。テレサは現地で旧知の仲のインゲと落ち合うのだが、そこで出会う2人のオーストリア女性も同じ目的地でこの地を訪れているように描写される。この映画において最も厄介で崇高なのは、彼女が自分の年齢や立場を忘れて、1人の女性として認めてもらうことを欲しているところである。彼女はこの地で4人の現地人男性と出会いSEXに至るのだが、そのうち2人とは未遂に終わる。男がとりあえず自分の性欲を満たすために手当たり次第なのに対して、このヒロインは心のつながりを何より重視しているところが、最も素敵で、逆に言うと最も痛いところになるのかもしれない。前半部分にちらっと出て来たが、このヒロインは姉と一緒で潔癖症という精神疾患を抱えている。彼女はケニア人に対して常に施しをする側であり、日頃の仕事のストレス、親子関係のストレスからSEXに依存してしまう。叔母も母親も娘も、それぞれパラダイスのただ中にいることで、外にあるパラダイスを否応無しに求めてしまう。その生理的欲求を監督はユーモラスに描いている。
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