せい

トム・アット・ザ・ファームのせいのレビュー・感想・評価

3.7
久々にドラン作品に手を伸ばした。
恋人の死。葬式に向かうが彼は自分のことを恋人だと紹介してはおらず、むしろ母親には女性の恋人がいると言っていた。
葬式の時の天気とは打って変わって、恋人の兄に脅されその家に居続ける時は暗くて、じめじめしてて、何もかもがぼんやりしている。そんな感じだった。
理不尽に脅され、ほとんど軟禁状態で、暴力も振るわれるのに、トムはそこから逃げることが出来ない。それは恐怖からではなく、次第で兄に対して愛情が芽生えたからだ。
仕方なく引き継いだ牛舎を煩わしいと思いながらも母のために、母に認めてもらうために維持している、でもそれはいつも空回っていて、母には冷たい扱いを受けている。そんな彼を放っておけなくて、自分がいてあげなければといつの間にかトムは思っていた。
トムの友人サラが家に訪ねてきた時の、「帰ろう」と何度言っても話をはぐらかすようにこの家の魅力を語るトムの瞳に光はない。
ストックホルム症候群はこうしてなるのだろうなあと思った。
ドラン作品は割とカラフルで芸術的な描写が多いけど、今回は薄暗い背景の中で不穏な空気をばんばん出していた。
稲穂の中を走るシーン、牛が引きずられるシーン、大好きです。
部屋の二人のベッドの距離の描写もとても良かった。さり気ない。

「君の代わりを見つけること」
せい

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