和桜

トム・アット・ザ・ファームの和桜のレビュー・感想・評価

3.9
恋人の葬儀に出席するため、彼の実家を訪れるトム。息子の恋人が女性だと信じる母親には友達と偽り、事情を知っている兄からは最後まで隠し通せと恫喝される。どこかおかしい家族に面食らいながら、葬儀が終わった後も帰ることが出来ない状況へと追い込まれる。

息子であり弟だった存在を失った家族に、その恋人が代替的に組み込まれたような奇妙な関係。情緒不安定な母と社会性を持たない兄が、トムを通して立ち直っていく話かと思えば、まさかのサイコなスリラー的展開を見せる。走れば傷つくトウモロコシ畑に囲まれた家は秀逸な設定だ。
過去の栄光や青年時代のモテ話を何度も自慢し続ける兄は、村八分された事で誰とも関われず時間が止まってしまった人間でもある。ようやく他者と関わる機会が出来て、動きだそうとする序盤の微かな美しさも嫌いじゃなかった。

退路が絶たれた田舎、束縛する母、隷属する兄を通して、恋人が置かれていた環境を追体験していくトム。洗脳とも共依存とも見られる状況に追い込まれながら、そこからの脱却を図る姿は、斬新な「喪失と再生」の過程にも不思議と見えてくる。
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