乙郎さん

罪の手ざわりの乙郎さんのネタバレレビュー・内容・結末

罪の手ざわり(2013年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

 2015/2/21@レンタルDVD。
 大傑作!確かに北野武や黒沢清を感じさせる部分はあるし、またテーマ的には『サウダーヂ』あたりにも似たものを感じたものの、重いテーマ性と映画的な煌きが高い純度で結実した映画になっていた。
 オープニングでバイクに乗った男が不良に絡まれる。「これはアクション映画じゃないからきっと痛めつけられるんだろうな」と思っていたら、虚を突かれるかたちで反撃が行われる。これは、この映画世界における暴力は突発的に起きるものだと宣言している。
 複数のエピソードが進行し、時折交差するものの決して交わらない様は『サウダーヂ』にも近い。ただ、個人的に鑑後感は『罪の手ざわり』のほうが上だった。それは映画的快楽の差なのかもしれない。エピソード1(普通に使っているけど、便宜的なものです)のラストの人のいない馬車とか、ある種カタルシスがあった。
 エピソード2には、単純に娯楽作品としての面白さも感じた。ただ、もちろんその裏には中国の急速な発展の裏で生じた歪みが流れているわけで、この娯楽としての愉しみに後ろめたさを感じてしまうのも事実。だが、この気持ちよさと悪さが同居した感覚は嫌いじゃない。
 とは、エピソード2で主人公が店にいる時や、エピソード3で主人公の女性がプラットフォームで見送りをしている時、あるひとりの人物にだけピントが合う演出、とても見事だった。後者なんか、ある人物が画面に映っているのに最後までピントが合わない。それが怖い。
 エピソード3は主人公の女性がある行為をやってしまった後に画面に向かって見せる動作が藤純子のようにキメキメだったのは、ちょっと現実味がないと思ったんだけど、でのその部分が確かに映画として気持ちよかったのは事実。うー、悩む。
 あと、エピソード4は、良質な青春映画だけど残酷さと常に隣り合わせなあたり『ヒーローショー』も連想した。ラストは巷で言われていた通り黒沢清的。
 全体として、この映画における悲劇は、貧困層と富裕層が交わった時に起きる。前にリツイートした内容で「本当に『サウダーヂ』を見ることができる人はある程度恵まれている人間だ」という大意のことが書いてあって、かなりドキッとしたんだけど、この映画にも近いものを感じた。この映画の、隣り合わせの世界であり、別世界でもあるという感覚ゆえに楽しめている罪悪感。そういったものとは向き合いつつも、今後自分としてはダウナー系エンターテイメントとしても楽しめてしまうのだろうな。
乙郎さん

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