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武士道シックスティーンのtakのレビュー・感想・評価

武士道シックスティーン(2010年製作の映画)
3.2
 僕はインドア派でスポーツは苦手。原作の剣道小説を面白いと感じられるのか半信半疑だった。いやはや、面白かった。ページをめくっていくたびに、対照的な香織と早苗が剣を交えて距離を縮めていく様子が楽しくて、楽しくて。剣道やってる人が面の向こうで何を思っているのか、防具越しに見える世界の描写の巧みさ、スポーツに真剣になる理由、そして父と娘の関係にじーんときた(最後はこの年齢だからだろうが)。

 その映画化である。キャストは宮本武蔵に憧れ勝つことこそがすべての香織に成海璃子。お気楽不動心の今ドキ女子高生早苗に北乃きい。原作から受けたイメージそのまま。納得のキャスティングと感じた。冒頭、香織が格下だと思っていた相手に負ける場面。ここがどう表現されるのだろう。ここが上手くないと先が思いやられるぞ・・・。早苗の動きはすごくぎこちなくビビってる感じ。香織が感じた"追えば逃げる。逃げれば寄ってくる。"という雰囲気には今ひとつかな・・・?そして香織がメンを喰らう直前。"真っ直ぐくる。剣先がありえない大きさに膨張する。"と表現された文章を、映像は香織の視線で捉えた。おっ上手いじゃん、これ。冒頭数分間は映画をそのまま楽しめるかの要だけど、なかなかいいじゃない!。

 ただ原作を気に入った立場からすれば、残念に思うところも多い。例えば、香織と父親の関係は大きく改変されて、直に剣道の教えを受けている間柄となっている。原作では香織の荒っぽい流儀は幼い頃から通った桐谷道場で身についたもので、父親は兄が剣道を辞める決心をさせた岡選手を育てた人物。香織にとっては兄の仇を刺客として差し向けた存在で、むしろ憎むべき存在であった。2時間の尺に収めるためには、人物の紹介ばかりに時間を割けない。その上でのやむを得ない改変なのだろうが、その分ラストの父娘の会話がどうも合点がいかない。父親が竹刀の手入れをしてあげる小説のエピソードが好きだっただけにやや残念。早苗の両親の唐突な復縁は、のほほーんと演じる古村比呂と、板尾創路の自由に生きている雰囲気がとても素敵だ。その父親に剣道を続ける理由を「好きだからじゃないのか。嫌いなら辞めちまえ。」と諭されるのも印象的な場面・・・あ、自分が親世代なもんだからどうしても親の役柄に感情移入しがちw

 それでも全体的には原作のテイストを崩さずに、香織と早苗の成長を描いている点では感動できる素敵な映画だ。「折れる心」を知ることでまた一歩成長する香織も、そんな香織の叱咤に耐えながら周囲に認められるまでに成長する早苗。一見正反対なのに、認めあえる間柄って素敵だ。好きであることが何ごとにおいても続けていけること。続けていれば、また会える。好きなことでつながっている人間関係って素敵だし何よりも強いものだと、再び感じさせてくれる映画だった。難を言えば日本舞踊をやっていたから独特な足運びをする、という早苗をもうちょっとカッコよく描いて欲しかったかな。
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