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それでも夜は明けるのmogのレビュー・感想・評価

それでも夜は明ける(2013年製作の映画)
3.5
映画としての魅せ方には特に見るべきものはない。

ストーリー展開も普通。キャスティングも意外性全くなし。ポール・ダノが出てきた瞬間きっとこいつこういうやつでこういう行動とるだろうと予想したことを寸分違わずやってくれる程の圧倒的素直さ。飲んだくれの元監督官の白人もブラッド・ピットも台詞が一昔前の漫画のような説明台詞。

アカデミー賞作品賞?題材に賞あげるのやめようぜ。

邦題も不満。夜は明けたのか。

しかし実話だと思えばそういう映画としての出来云々とは違う次元で感情が動く。

見ながら考えてたことを二つだけ。

ひとつ。教養も品格もある黒人がある日突然奴隷に貶められるような怖い時代があった、と読んでしまうことの怖さ。教養も品格もない黒人は奴隷に相応しいのかという問いを捨て置いてはならない。ソロモンは市民として生活してきた過去があるから奴隷として生きる理不尽さに苦しんだが奴隷として育てられ理不尽さを感じることができないことがあることが奴隷制度の本当の残酷さなのでは。我々がソロモンに感情移入できて「根っからの奴隷」には感情移入できないなら人間性の限界はそこにあるのでは。

ふたつ。現代に生きる我々は南部の白人農園主とどれだけちがうと言えるのか。奴隷時代というと大昔の悪い時代を見てるように思えてもたかだか150年前の話で、彼らが道徳的に我々より野蛮だというわけではなくて社会の常識がアップデートされてないだけなんだよね。その時代の認識の外側に立って物事を見るのは難しいこと。奴隷制度はなくなったとしても女性の抑圧はまだ世界レベルでは酷いものだしセクシャルマイノリティーの差別なんてまだまだ見直され始めたばかり。ここら辺は150年後には今を酷い時代だと言える程度には良くなってる気もするけど、権利の拡大はどこまで進むかね。動物の権利は保障されてるかね。かつては畜産と言って狭い豚小屋で育てられて屠殺される酷い仕組みがあったんですって映画が撮られるようになっているだろうか。

人間という動物がどこまで理性を持って社会を運営していけるかみたいな本当のユートピア映画とか見てみたいなあとかもはやこの映画全然関係ないこと考えてたら映画終わってた。

映画としての撮り方というところに戻ると、ソロモンが首吊られてるけど周りが平常運行で子供たちが遊んでる描写なんか制度としての奴隷制度の残酷さを強烈に印象づけるけどそのシーンをホームレスの前を足早に通り過ぎるサラリーマンたちを撮るのと同じ温度で撮りたいし見てる方もそういう風に見れるようにならないと真の意味での人間の愚かしさって克服できないよね。

彼らが歌う歌がすごく心に響いた。

追記
アカデミー賞作品賞というハードルで観てるからこんな評価になったんだと思うけど、しばらく経って思い返してみると印象に残ってるシーンもたくさんあるし筋も観ながら感じたこともよく覚えてるしやっぱり力のある映画だなと。
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