ぎー

ダラス・バイヤーズクラブのぎーのレビュー・感想・評価

ダラス・バイヤーズクラブ(2013年製作の映画)
3.5
『ただ俺が欲しいのは、冷えたビールとロデオへの復帰かな。』
たった一度の人生を生き切ったHIV患者の半生を描いた映画。
ヴァレ監督特集1作品目。

主人公のロンがHIV感染を告知される衝撃的な場面から映画は始まる。
結論から言ってしまえば、この映画はマコノヒーの歴史に残る名演をただただ鑑賞する映画。
減量も凄まじいし、しかもストーリーが進むにつれて減量はさらに進んでいき、その中でも、人間性が変化していく様子を熱演していて、俳優ってここまでしないといけないのかと、恐怖すら覚える演技だった。
冒頭のシーンもそう。
まるで命をすり減らすかのような生き方をしていたロンですら、HIV感染を知れば取り乱し、おそらくこれまで一度たりともすがった事のない神様や医学に死ぬ気ですがることになる。
迫力が凄かったし、彼の演技を見ているだけで、いかにHIVウイルスの脅威が凄いか痛感させられた。

友人や同僚から疎まれる様子はリアリティが凄かった。
当時もそうだったのだろうけど、現代ですら偏見は無くなっていないと思う。
恐れることは仕方ないかも知れないけど、何事も正しく知ったうえで恐れることが大事。

そんな中で芽生えたトランスジェンダーのレイヨンとの友情は不思議で素敵だった。
HIV感染を機に、言い方が適切か分からないけど、間違いなくロンの人間力は上がっていった。
レイヨンを演じたジャレット・レトさんの演技も凄かったな。

死をもたらす病を前に未承認のAZTという薬にすがり、やがてアメリカ国内では承認されていない薬を密輸して患者に売り捌く会員クラブを作ることになる。
彼の発想も、諦めないメンタリティも、苦しい体調の中でやり遂げるバイタリティも素晴らしいと思う。

ただ映画としてちょっとのめり込めなかったのは、あまりにも主人公ロンの側から見た世界観に映画が寄り過ぎているところ。
わかりやすくAZTを開発している製薬会社や関係する医師、そしてFADを悪者として描いているけど、そんなに簡単な問題じゃないと思う。
彼の言っていることももっともだけど、エイズはもちろん単純な病気ではないし、政府機関や医師には責任が伴う。
ちょっと勧善懲悪チックになり過ぎていて、一歩引いてしまったな。

とは言え、自らが死を身近にしながらの行動は本当に尊敬できる。
1番印象に残ったシーンは、裁判に負けた彼を患者達が拍手で迎える場面。
彼はHIVというウイルスを持ってしまったけど、その不屈の精神で逆に人間らしい生活や、友情、仲間といったものを持つことができた。
どんな状況でも決して諦めてはいけない。
そして、たった一度の人生後悔しないように生き切らなくてはいけない。
幸い健康体に生まれて来た自分がそれを貫けているか。
考えさせられる映画だった。

◆備忘ストーリー
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ダラス・バイヤーズクラブ
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