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ダラス・バイヤーズクラブのKanaiSatoruのレビュー・感想・評価

ダラス・バイヤーズクラブ(2013年製作の映画)
4.3
ダラスバイヤーズクラブを観ました。

マシュー・マコノヒーが、エイズ患者を演じるため21キロにおよぶ減量をして役作りに挑み、第86回アカデミー賞で主演男優賞を受賞した実話です
まさかの変身ぶり、すごい役作りです
驚きました

ストーリー
トレーラーを寝床にするその日暮らしのロン・ウッドルーフ
女好きで酒とドラッグとギャンブルに溺れるある日、激しい目まいに襲われて意識を失い、病室で目覚めると、医師から「HIV陽性、余命30日」と宣告される
ロンは何とか生きる道を探そうとするが、アメリカには有効な治療薬がない、、、
ロンは治療薬を求めてメキシコへ向かう
果たしてロンは治療薬を見つけられるのか?

ロンは口が悪く喧嘩っ早いので、そのキャラに共感できず、最初はイライラします
彼がエイズに感染しようが、正直言ってどうでもよくて、自業自得だろ、という感じです

ところが、AZTという認承された治療薬が、製薬会社と医師との癒着によってなされたもので、ホントは毒性の副作用があることが隠されている、という展開になるあたりから、製薬会社や医師など悪者に対しての嫌悪感が勝り、ロンに対して持っていた感情が変化していく自分に気づかされます。

この演出、意図的でしょうか、上手いです

またトランスジェンダーのレイヨン(ジャレッド・レト)というキャラも、物語り上では、とても重要な役どころ
彼もアカデミー助演男優賞を受賞というから、納得の演技です

途中、スーパーで差別にあうシーンがあるのですが、そこでのレイヨンの何とも言えない表情が素晴らしいです、名優です

さて物語りは、全編通して、エイズという病気に対しての社会的な認識や偏見(同性愛者の病気)を描きます
そして世界中が治療薬の開発に取り組んでおり、延命できる余地があることが分かってくる時代、ただし国によって認承される薬が異なっており、どの治療薬が最も効果があるのか、誰もわからない時代、そんな背景を描きます

そんな中でクズのような生活を送っていたロンが、自分が死なないことだけを考えていたロンが、世界中に治療薬があるのに認承されていないために買うことができない、ということに気づき、非合法の商売を始めます
密輸した薬の値段は月に400ドル(4万円)で飲み放題というから、生死の境にいる人からしたら安い値段です
この商売を人の生死を商売にして!ゲスな野郎だ、と思うかもしれません
しかし商売のスタートがそうであっても、ロンが命がけで密輸する姿や政府機関と戦う姿を観るうちに、観る側はロンの社会革命家のような姿に感銘を受けるようになります

映画は善悪を分かりやすく描くことで、観る人を誘導し、感情移入しやすくする、というエンターテイメントの要素が、どうしたってあるものですね

ロンは劇中で、「死なないことだけ考えていて、生きている実感がない」と言います
とても切ないシーンです
治療薬はあるのに認承されない、たくさんの人を救うためにガムシャラに戦ってきたが、それは死なないための闘いで、そこに達成感もなければ、安らぎもない、そこにあるのは「怒り」でしょうか

彼を動かすのは、過去の自分への怒り、世の中の偏見への怒り、製薬会社への怒り、政府への怒り、ロンがどう感じていたかわかりませんが、自分にはそう見えました

そんなちょっとやり切れない映画ですが、ロンが最後に、女医との親交や裁判を経て、笑顔になるシーンがあります。
その自然な笑顔をみて、あっ、やっと生きてることを実感したんだな、と分かるいくつかのシーンに少し救われる、そんな映画です。
人が生きる姿を描いた、なかなかの力作。
個人評価は、85点です。
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