Iri17

野のなななのかのIri17のレビュー・感想・評価

野のなななのか(2014年製作の映画)
5.0
1人の老人の死を軸に、戦争、国家、家族、愛の本質が語られる。

この映画を簡潔にまとめるなら
「この映画は芸術であり、日本であり、人生であり、家族であり、愛である。この映画は真理である。」
僕はそう感じた。

この映画を監督大林宣彦は「僕は3・11以降、芸術は風化しないジャーナリズムだと決めましてね、それでこの作品を作った。名付けて『シネマ・ゲルニカ』ピカソのゲルニカが人々の心を揺さぶり続ける様に、想像力で僕らは(戦争体験を)伝える」と語っているという。
この映画は斜陽国家である日本のリアリズムを表現している。その様はまさにピカソがゲルニカで表した戦争の恐ろしさ、科学文明の発展による人間の傲慢さと愚かさである。大林宣彦という人は現代のピカソだ。絵画を活動写真という表現方法に置き換えた真の芸術家なのだ。この作品に描かれているのは大林宣彦の戦争体験と戦争への忌避感である。この作品は恐ろしい、そして暗い。

しかし同時にこの作品は暖かく、希望にも満ちている。大林宣彦の人間への揺るぎない愛が貫かれているからだろう。「生」の力と意味がこの作品からは溢れ出ているし、「死」すらも彼は肯定する。人間の「生と死」は大きな宇宙の一部に過ぎない。それでも一人の人間の「生と死」には意味がある。大林宣彦はそう力強く肯定する。

3.11以降、日本では「絆」や「繋がり」が強調され、埋没した1億2千の個が大きな流れの中に流されているように感じる。
「発展の為には原発は再稼働しなくてはならない」
「会社の為に休みなく働け。パワハラやセクハラも我慢しろ」
「外国が攻めてくる。海を埋め立てて、憲法を変えよう」
このような大きな流れは日本人が自然の一部であることを忘れている傲慢さによるものだ。彼は映画というアートを通して本来あるべき人間の姿を表現しているのだと思う。それは生と死、そして愛だ。

「メリークリスマス、皆が望めば戦争は終わる」ジョン・レノンの歌の歌詞だ。
ジョン・レノンも大林宣彦もアートを通して、哲学も政治も愛も表現した真のアーティストだ。

この国は明らかに不穏な空気が流れ、間違った方向に進んでいるように感じる。大林宣彦の「シネマ・ゲルニカ」と彼の平和と愛への想いを受け継ぐのは若い僕たちの責務だろう。
3時間近くある作品だが、カットと会話を短く切るという彼の演出も相まって、長さは感じない。むしろあっという間に終わってしまう。僕にとって彼の作品は3作目であるが、僕は彼が日本で、いや世界で1番偉大な映画監督の一人であると確信している。
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