朝田

ビッグ・ヒート/復讐は俺に任せろの朝田のレビュー・感想・評価

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もはやブレッソン並みのソリッドなノワール。まずセリフ一切なしで事件が起こり、発見されるまでを必要最小限のカットだけで見せるスマートなオープニングからして滅茶苦茶スタイリッシュ。そこから警察が来るまでも早い。カメラがわりと動き回るのだが、どれだけ動いても最終的に「これ以外はない」と言わざるを得ないような照明と構図のキマッたショットになるのが凄い。主人公の妻が死ぬ、というシリアスな展開になっていくが最近の映画であれは主人公が泣き叫んだり苦悩して塞ぎ込んだりといった心理的な描写が強調されそうだが、そうしたチープなエモーションの表現やウェットさには流れされない。人びとが蠢き、バサバサとカットが移行していく気持ちの良さ。このラングらしい厳格な姿勢が作品の格調高さに繋がっている。暴力描写の切れ味も流石で、主人公と敵、そのどちらにも暴力性を無理やり押し込めているような雰囲気があり、誰が何をしでかすか判ったものではないというような背筋が正されるような緊張感に満ちている。本題の事件はあくまで悪夢のきっかけに過ぎず、どんどん異常な人物や、人物の中の狂気がたち現れていくまさに「ノワール的」な予測不能さだと思う。的確なカット割りと演出で90分とは思えない密度のあるノワールに仕上がっていて大変楽しんだ。
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