たけひろ

アバウト・タイム 愛おしい時間についてのたけひろのレビュー・感想・評価

4.0
知的で、ユーモアがあり、手足が長く、身のこなしがスマートで、たまに豚鼻になるのも可愛いらしく、声も話し方も表情もセクシーなので、もしも私が女性だったなら、きっと惚れるであろう魅力的な男、ビル・ナイ。

彼と息子の、海辺の散歩は、本作だからこそ描くことのできる名シーンで、切なくも美しかった。

私が息子のティムだったら「子供は二人までにしよう」と何かしらの理由を作り、妻のメアリーを説得してしまいそう。

それほど、ビル・ナイのパパが素敵だったし、永遠の別れとなってしまうことが哀しかった。

もしもあの能力を自分が持っていたなら、どんなふうに使うかな。

エラー&リトライを繰り返すのが人生。

そう、当たり前だけれど、新たな一日はいつも、人生で初めての一日で、新たな出会いにも、新たな体験にも、不安や期待はつきまとうもの。

「パターソン」での、バスの運転手であり、詩人でもあった彼の暮らし振りに感動したのも、その一日一日の過ごし方が丁寧で、慎ましく、人生の豊かさが伝わってきたから。

タイムトラベルの能力と、それによる経験と、パパから学んだティムの人生哲学は「パターソン」と通ずるものがあるし、私もそうでありたいと心から思う。

時間も、命も、決して無限ではなく、有限だからこそ、愛おしく、大切にする気持ちが生まれるのかも。

「About Time」とは「About Life」でもあるのだろう。

ティムがパパから受け継いだ能力の本質はきっと、その気づきにある。

(卓球もテニスもピクニックもできて、海の近くにあるコーンウォールの実家が理想的だった)

以下は、本作を観たことにより書きたくなったのに、本作とはあまり関係のない話、なので、スルーしちゃっても大丈夫です。

ティムとメアリーが初めて出会った暗闇レストラン。

あれが、友人に誘われて参加したことのある「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」のようだったので、印象的だった体験を思い出した。

完全なる暗闇の世界。

しかも初めての場所。

そこには何があるのか、何も見えないし、何も知らないといった状況。

ただ歩くだけでも、ものすごく不安で、一歩一歩が恐る恐るになる。

暗闇のエキスパートである、盲目のアテンドさんの案内と、基本的には聴覚と触覚が頼り。

とはいえ、暗闇での、まだお互いに顔を知らないままでの自己紹介は不思議と気が楽だったし、8名ほどの参加者たちで円になって行った、バレーボールを転がすキャッチボールは下手くそながらも楽しく、レストランでの飲食は、見える時よりも深く味わえて、味覚と嗅覚が鋭くなったように感じられた。

普段の生活の中で、どれほど視力に頼っているのか、どれほど見られることを意識しているのか、そんなことを実感した。

と同時に、もしも視力を失ったなら、どれほど大変な生活になるのかと、怖くもなった。

暗闇では、視力のある参加者よりも、盲目のアテンドさんのほうが圧倒的に自由で、頼り甲斐のある存在となる。

が、暗闇から光のある場所に戻ると、それは逆転する。

奇妙な感覚だった。

「暗くなるまで待って」で、盲目のオードリー・ヘップバーンと、家に押し入った強盗のアラン・アーキンの立場が、明るい時と暗い時とで逆転していたけれど、現実の世界でもきっと、そうなるだろう。

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」では、暗闇の世界での様々な体験を終えると、明るい場所に戻ることになる。

その時、初めて、他の参加者たちとアテンドさんの顔を見る。

声だけで想像していた顔とは、やはりどうしても違ってくるので、魔法が解けるような感覚になる。

「美女と野獣」で魔女の呪いが解けたあとに、みんなの姿を見るかのような感覚。

逆に、他の参加者たちが、私の顔をどのように想像したのかも気になった。

自分の顔以外の画像をアイコンにしている場合には、SNSの世界でも同じことが起こりそう。

「サマーウォーズ」や「レディ・プレイヤー1」で使われていたアバターも同様で、仮想現実と現実世界とのギャップを生み出している。

本作での、ティムとメアリーの出会いのシーンの場として、あの暗闇レストランが設定されたのは、とてもユニークなアイデアだったと思う。

Filmarksでたとえるなら、プロフィール画像はお互いに自分の顔以外の画像(俳優、女優、キャラクター、映画のワンシーン、動物、風景など)となっていて、映画のスコア、レビューの文章、いいね!、コメント、による印象がまず先行している状態で、その後、実際に会うようなもの。

本来なら、お互いの顔を見てからの対話、となるのに、そこをあえて逆転させることにより、ロマンスを生み出したところに、脚本を書いて監督した、リチャード・カーティスのセンスを感じる。

撮影も簡単そうだったし笑

最後に。

キットカットだなんて、素敵な名前。