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アゲイン 28年目の甲子園のharunomaのレビュー・感想・評価

アゲイン 28年目の甲子園(2014年製作の映画)
4.0
波瑠日和
ということで二度目。
土屋太鳳、アニャ・テイラー=ジョイ、広瀬すず、永野芽郁ときて、波瑠に落ちつく。あんぜんでよろしい。スコア高い

2015年の作品 16mm 撮影ってだけで50点くらいアップしてしまうから不思議。フィルムで撮るのがもう最大の演出じゃないのか。波瑠がいい、波瑠が好き、まぁそれだけが鑑賞の理由だけど、中井貴一も和久井映見も、ぎばちゃんも、門脇麦も頑張っているのは言うまでもない(時にあざとい脚本の台詞はあるけど)。父と娘、それぞれの家族の想いも取り込んだドラマ。トラウマ的記憶に向かい合うとは、やはり一つの世代では終わりようがない。家族もそうだが、死者の想い、への想いというのはやっぱり泣けてしまう。中井と波瑠のタッグでよかった(この後、ドラマでもう一度共演する)。キャッチボール 「言葉なしの切り返し」が素晴らしい。映画の原理としても泣くしかない。切り返しとは、キャッチボールのためにある、もちろん音楽もそこにはある、ひとつのバガテル

見える演出、ということでいうなら、万田邦敏、塩田明彦(塩田さんは徐々に「演出が見える」というだけの演出家に墜ちていったと思うけど、職人に成りきれない芸術家ってめずらしい倒錯)が言っていたことの、オーソドックスかつスタンダードな映画の演出(ステディカムを多用してるからオーソドックスかは疑問だが、もともと撮影の佐光朗はステディカムオペレーターでもあるので、移動は上手い)の到着がこのような映画。
波瑠の亡くなった父親の過去について中井貴一が気まずい昔話をするとき、台詞のタイミングで公園の回転ジャングルジムを中井が回し、カメラは回転する遊具のミドポジなめで場面の心情的な効果を出したり、駅のホームの別れ際とか、ちゃんとサイズ変えて切り返したり、普通にカットが割れていくのが心地よい。回想の高校球児たちも素晴らしい。登場シーンで、いきなり画面をかっさらっていく和久井映見の独白は見事だし、回想の高校球児、太賀もおそらく初めて気骨ある男気のある青年を演じていてよかった。

別にいまの日本映画はこれでもいいと思う。あとはフィルムで撮ってもらえれば。それにしてもマスターズ甲子園を目指すって、この映画、誰が観るんだろう...。中年も観に行かないだろう。興収を無視した東映の企画は、時に丁寧な職人たちの良作を炸裂させる(『行きずりの街』これは怪作か)謎。

特にお目当ての俳優がいる人以外は、観る必要はないかも知れません。
大森寿美男監督。名前知りませんでしたが、脚本『なつぞら』ということで『なつぞら』みてみようかな。


前述のことながら、映画作家諸兄へ
動線と空間、小道具を多用した身振りや、演出のための身振りの演出は、絵に描いたように、そこに作家の演出を見ることはできるだろう(テマティスムを作家の方が狙っていく醜悪さ)が、過剰であり物語を喪うリスクを孕んでいる。金も役者もいない清貧の思想からの演出の重視は、技術としては戦略的であり高潔かも知れないが、そんな窮屈な映画を、劇映画として迎え入れるほど、わたしたちはまだ落ちぶれてはいない。観客を舐めないでください。
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