けんたろう

真昼の不思議な物体のけんたろうのネタバレレビュー・内容・結末

真昼の不思議な物体(2000年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

真昼の不思議なおはなし。


始めはナレーション有りきのスタイルに少しく戸惑うてしまった。アピチャッポン映画と云へば、皆な、ノイズなどが一切なく静かな映像で語りかけてくるものだとばかり思うてゐたのだ。が、何うやら総べてではないらしい。とにかく雑然としてゐる(……いや、思ひ返してみれば『ブンミおじさん~』も可成り混沌とした一本ではあった)。
先づ、物語りの形が非常に曖昧である。果たして此れは自らが見知った家族の物語りなのか、其れとも村に伝はる昔話しなのか、将又た出鱈目に作られた只の即興話しなのか。全く明確でない。
加へて、其の表現方法である。或るときには村の出し物レベルの演劇に依って、又た或るときには役者もスタッフも揃った一般的な映画に依って、そして又た或るときには聴いても何も面白くない素人の語り芸に依って。もう無茶苦茶である。一般的な映画表現と云へようものも亦た酷く模糊としてゐるので、愈〻訳が解らない。
コメディかと思へば、ファンタジー。ファンタジーかと思へば、サスペンス。映画の色さへも自在である。

屹度此れは、フィクションとドキュメンタリーの垣根を超えて、不安定ながらも一つの物語を作り上げてゆく過程なのだらう。上映前の監督のVTRに拠れば、本作、事実と虚構の境界線に迫った云々との由し。成るほど此れは事実とも虚構とも附かぬ不思議な物語りなり。
たゞ其んな中でも、バンコクへの潜在的な憧れが全編に亘って示唆されてゐるのは興味深い。一つの物語りを作る以上、矢張り無意識のうちでも終着の一点は見据ゑられるものなのだらう。
兎角、奇妙な一本であった。因みに、作中最も面白かったのは結末である。彼れほど皆んなが好き勝手に話してぐちゃぐちゃに成った物語りが、まさか子供の戯言で幕を閉じるとは。さすがに笑ってしまった。