いたばくし

冬冬の夏休みのいたばくしのレビュー・感想・評価

冬冬の夏休み(1984年製作の映画)
4.2
小学校を卒業した冬冬少年と幼い妹が、入院中の母親と看病で忙しい父親の元を離れ、田舎で町医者を営む祖父の家で夏休みを過ごすお話。

まず、田舎の美しい景色のひとつひとつが素晴らしいです。長閑な田園風景、川のせせらぎ、橋を渡る電車、どこのシーンを切り取っても完璧な構図。郷愁を誘うどころか、郷愁の中に自分が溶け込んでいってしまうような圧倒的な映像感覚。

少年時代の夏休みのワクワクが蘇ってくるシーンがたくさんあって最高の映画なんですが、個人的に一番好きなのは冬冬が田舎の駅にやってきたシーンです。
冬冬が駅前のロータリーでラジコンカーを走らせていると、地元の少年たちが寄ってきて、それをもの珍しそうに見ている。少年たちは川で捕まえてきた亀を地面に置いて、冬冬はラジコンをその亀に体当たりさせてみる。それを見て笑う少年たち。会話のやり取りがないのに、少年たちと心が近付いていくのがわかる。そして最後に、冬冬はラジコンカーと亀を交換して少年たちと友だちになる。『ぼくの夏休み』のはじまりです。

友だちが出来た冬冬は田舎で川遊びや木登りをして遊びますが、その間には意外にもエグいエピソードが挿入されていきます。

たとえば発達障害の女の子(寒子)が男にちょっかいを出され、身籠ってしまう話。周りの大人たちが冬冬の祖父の病院にやってきて、子供を産めばあの子にも責任感がつくから産ませようとか、産まれてきた子が障がい者だったらどうするんだとか、なんで避妊手術させなかったんだとかあれこれ議論するところは実にリアル。それを冬冬は遠くから見ていて、そのことを病床にいる母親への手紙に書くんですが、子供の目線で淡々と語られる生々しいエピソードに心に楔を打ち込まれたような気持ちになりました。
これ以上はネタバレになるので書きませんが、この寒子のエピソードの続きは実に泣けるんですよ。

美しいジュブナイルもので終わらせず、一元的なノスタルジー賛美でもなく、心にずっしりと余韻を残すホウ・シャオシェンの手腕たるや。これは大人になってから思い出さなければならない、少し苦い『ぼくの夏休み』です。