ハル

冬冬の夏休みのハルのレビュー・感想・評価

冬冬の夏休み(1984年製作の映画)
4.5
「となりのトトロに似ている」と思った映画が二つある。スペイン映画の「ミツバチのささやき」と、これから紹介する台湾映画の「冬冬の夏休み」だ。

主人公の冬冬(トントン)は小学校を卒業したばかりの男の子で、幼い妹が一人いる。兄妹は台北(台湾の都会)に住んでいるが、お母さんが重い病にかかってしまったために、夏休みの間だけ田舎へ帰省することになる。お母さんの実家には町医者を営む厳格なおじいさんがいるが、外には美しい山河があり同世代の子どもたちがいて、兄妹たちは、束の間の休日を、思い切り遊んで過ごす。

となりのトトロと違うのは、子供だけのノスタルジックな作品として完結していない点だろう。少年の目には、きれいなもの(子供の世界)だけではなくて、汚いもの(大人の世界)も見えている。小学生から中学生に上がる頃と言えば、大人の世界構造が何となく分かりかけてくる時期である。そんな微妙な時期の、ほとんど無垢な目が捉える大人の世界は複雑なうえに厳しい。ただでさえ煩わしいそれが、子供の目を通すと、さらに煩わしく感じられるのだから不思議である。

となりのトトロを彷彿とさせるノスタルジックな世界。そして、時として現れる大人の世界の片鱗。少年の無垢な目には二つの世界が同居している。子供の世界を十分に遊び尽くし、大人の世界を垣間見た彼が最後に少しだけ成長したように見えるのが微笑ましい。
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