ちろる

冬冬の夏休みのちろるのレビュー・感想・評価

冬冬の夏休み(1984年製作の映画)
4.1
国もシチュエーションも違うはずなんだけど、なんだか「となりのトトロ」を観た後のような感覚。
日本家屋みたいな作りのお家とか、仰げば尊しとか、赤とんぼの唄とか、台湾が舞台とはいえ日本の田舎の夏休みのような雰囲気だからスッと入り込めるのもいいし、
夏休みに行く祖父の田舎、太陽と深緑の匂いと冷たい川べりで遊ぶ新しい友達との出会いなどジュブナイルもの好きにはたまらない映像がてんこ盛りでした。
瑞々しくてきらきらした宝物のような瞬間と共に、離れた台北で入院している母親のことが気がかりでもあるから、心が喜びと寂しさが行ったり来たりするトントンとティンティンの2人の不安定な気持ちが溢れでて抱きしめたくなる。
子供の世界と大人の世界が遮断されたように描かれているけど、大人になりきれない叔父さんについつい巻き込まれてしまうトントンと、障害のある女性、寒子をあるきっかけで慕うようになるティンティンの絆によって図らずとも兄妹は大人のさまざまな大人の事情に足を踏み入れて行くことになる。

大抵の大人は、子供が子供らしくいられるために必至で遮断して、順序よく大人への階段をふませようとするけれど、
多分こういう大人の用意してなかったアクシデンタルなことが、一番成長したときに役立つのかもしれない。
描かれる1つ1つのエピソードは個別なのだが、その少しずつ伏線となっていく演出の素晴らしさや、最後までそんなに優しくない頑固なおじいちゃんの一貫した存在感とか、そういうのがいちいちセンス良くて、その大袈裟なところがない作りのお陰でまるで私の夏休みの思い出の一部のようになって心の中に埋め込まれた。

トントンと仲良くなった阿正國も、ひとりぼっちのティンティンに純粋な母性で包んでくれた寒子も、おそらくいつかこの台北から来た兄妹のことを忘れてしまうだろう。
でも、この2人の兄妹はきっとこのかけがえのない夏休み時間を一生忘れない。
ちょっとだけ切ないけど多分それが田舎の夏休みだから、それでいいのだと思う。
ちろる

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