河豚川ポンズ

キングス・オブ・サマーの河豚川ポンズのレビュー・感想・評価

キングス・オブ・サマー(2013年製作の映画)
4.3
大人への挑戦のために過ごした夏休みな映画。
最近アクションやら爆発やゾンビやらばっかりで、とても物騒なマイページになりつつあったので、バランスを取るために爽やかな映画を取り上げねばなるまいと思った。

17歳で思春期真っ只中のジョー(ニック・ロビンソン)は、毎日あれこれと過保護な干渉をしてくる父親のフランク(ニック・オファーマン)を疎ましく思っていた。
ジョーが幼い頃に母親が亡くなってきてからというもの、姉のヘザー(アリソン・ブリー)も男手一つで育ててきたフランクにとっては、過干渉も我が子可愛さゆえのものだった。
しかし、ジョーの不満も限界を迎え、勢いのまま家を飛び出し、同じく親の過干渉に悩む親友のパトリック(ガブリエル・バッソ)と共に森の中へと駆け込んでいく。
森の中では同級生たちがパーティーを開いておりそこに加わるが、バカ騒ぎに怒った近所の住民が銃を発砲。
慌てて逃げ出した先でジョーは開けた場所に出てくる。
そこで、これしかないという名案を思いついたジョーはパトリックと、たまたま一緒に逃げてきたビアジオ(モイセス・アリアス)に話を持ち掛ける。
それは「ここに家を建てて3人で自給自足で暮らす」というとんでもないアイデアだった。


大小はあれど誰しもが経験する親への反抗期。
何かにつけて色々と口を出してくる親に我慢できずに反抗する人もいれば、物分かりの良さからただ黙るだけでやり過ごした人もいるだろう。
でも多くに共通するのは、そんな反抗期・思春期の言い表せないようなモヤモヤや悩みを抱えていたこと。
この映画での主人公であるジョーもそれは変わらない。
母親の死という重すぎるイベントを乗り越えきれず、過保護の父親と衝突を繰り返す。
しかし、彼が普通の人と違ったのは思い切りの良さ。
変わらなければいけないと思った彼は、森の中で家を建てて自給自足の生活を始める。
彼らは親たちの干渉から抜け出して子供から大人になることはもちろん、自分たちで何でも決められる「王様」になろうとしたのだ。
家出ぐらいだったらまだ現実でもよくある話だけど、そうではなくて一から家を建てようという行動力の化身みたいな発想。
ジョーとその友人たちにとってみれば、親の手の届かない世界に逃げられるのだから、そりゃあ何が何でも何を使ってでもやろうとするよね。
もし自分にそんなバカみたいなことを提案してくれる友人やそういうチャンスがあったら絶対乗りたいよな…と、こういう輝かしい記憶になるような冒険を少し羨ましく思ってしまう。

ジョーが友人にも恵まれていたことも明らかだろう。
昔から気の合った友人であるパトリックと、何かと不思議な空気感を漂わせてるが心の内にはしっかりアツいものを秘めているビアジオ、この2人と一緒ならこんな生活もずっと続けていられるはず。
だがやはり何事も長くは続かず、彼らの夏が終わりを告げるようにその生活も大きな問題を抱えていくことになる。
彼らは家を建てて自給自足を始めた時点で大人になれたと思ったのだろうが、ストーリー全体でみるとこの経験を経たことで初めて彼らは大人への一歩を踏み出しただろう。
何かを成功させることではなく、成功させるために何かに必死になって打ち込む経験こそが人を成長させるものだし、青春にはやはりそれが欠かせない。
自分みたいな灰色の青春を送ってきた人間にとっては、もう願っても得られないものだからか、眩しく思えて仕方ない。
こんなきれいな話を「キングコング: 髑髏島の巨神」のジョーダン・ヴォート=ロバーツが監督してるっていうんだからすごいよね。
むしろこんな映画を撮ってから、なぜにキングコングのオファーが来たのかが心底謎。

残念ながらレンタルはされていないので、Amazon Primeか、DVDを購入するか、リバイバル上映を待つかのどれかしかないけれど、もし観るチャンスに恵まれて、少しでも見ようか迷っているのなら絶対に観に行った方がいい傑作。
それだけ、この映画には値段分以上の価値があるものだと思う。