MasaichiYaguchi

フォックスキャッチャーのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

フォックスキャッチャー(2014年製作の映画)
3.8
1996年に起きたレスリング金メダリスト射殺事件を題材とした作品。
映画は事件が起こるまでの経緯を、マーク・シュルツとデイヴ・シュルツという金メダリスト兄弟と、レスリングの熱狂的なファンで、この兄弟をはじめとしたレスリングチームをバックアップした大富豪で篤志家のジョン・デュポン、この三者間の関係が徐々に歪なものに変わっていくのを静かに冷徹に見詰めていく。
この三人を演じた俳優たちが素晴らしい!
チャニング・テイタムとマーク・ラファロは体をマッチョに鍛え上げて、練習風景にしろ試合のシーンにしろ、本物のレスリングの選手のように見える。
そしてスティーヴ・カレル。
映画の冒頭と終盤ではまるで雰囲気が違う。
彼が徐々に人として壊れていく様は静かだが、背筋が寒くなるような怖さがある。
殺人を犯すこの人物は妄想型精神分裂症だったらしいが、母親をシンボルとする財閥歴代の輝かしい栄誉が彼に重く伸し掛かっていたと思う。
そして同様にマーク・シュルツも、金メダリストでありながら、コーチであり、親的な存在である兄に劣等感に近い感情を抱いていたと思う。
自らのアイデンティティーをレスリングによる名声で確立しようとするデュポンとマークは意気投合してタッグを組み、世界選手権やオリンピックに挑んでいくのだが…
夫々の理想や思惑は何処かで分岐点を迎え、マークの兄デイヴの存在にもより、その乖離に拍車が掛かっていく。
劇中のある場面でデヴィッド・ボウイの「Fame」が流れるが、この曲は本作品を象徴していると思う。
名声や栄誉を追い求め、それに固執して身を滅ぼしていく人間の心の闇を描く本作は現代の「ギリシャ悲劇」と呼べるかもしれない。