クロ

イーダのクロのレビュー・感想・評価

イーダ(2013年製作の映画)
4.2
1962年のポーランド、戦災孤児としてカトリック系修道院で暮らすイーダ。キリストの花嫁として身を捧げる修道誓願を前に外出許可を得、彼女との面会を久しく拒絶していた叔母ヴァンダと再会する。ヴァンダはイーダの出自を明らかにする、という名目で彼女を故郷への旅に連れ出す。

第二次大戦中、ポーランドはドイツ、ソ連という列強国に蹂躙されていた。1941年、イェドヴァブネという村ではナチス側の誘導があったにせよ約400名のユダヤ人が同朋である近隣の非ユダヤ系住人により、暴行され焼き殺される事件が起きた。多くのポーランド人にとって大戦は忘れてはならない歴史であると同時に、忘れたい過去でもある。二人の旅も至るところで繰り広げられたであろう惨事のひとつの残滓に辿り着く。

保護された箱庭である修道院で生きてきた戦争を知らないイーダと、検事という立場で時に自らの手を血に染めながらしたたかに歴史に関与してきたヴァンダ。ヴァンダはその顛末を受け入れ自らの幕を引く。イーダはヴァンダの慚愧を受肉したように、煙草を吸い、火酒を煽り、兵役から逃げまわる市井の青年に身を委ね、箱庭を後にする。

何故私達の世界はこんなにも苦痛に満ちているのか?もしかしたらそれは神様の設計ミスだったのかもしれない。だからといって私達は諍いの仲裁を神様に委ねることはできない。私達が播いた悪い芽は私達の手で摘まねばならない。でも祈ることを無意味だとは思わない。それが亡き者のための労いと優しさの発露であるなら。イーダという女性は損なわれた地から吹き返す新しい芽だと思った。

イーダを演じたアガタ・チェブホウスカは、見るものの心を見透してしまう静かで暗い水のような眼差しが印象的だった。

冬のポーランドを切り取る映像の美しさも特筆すべきだが、文才の無さゆえその魅力を伝えきれないのが悔やまれる。