KnightsofOdessa

イーダのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

イーダ(2013年製作の映画)
4.9
No.1158[知らない過去、忘れたい過去、忘れられない過去] 99点(OoC)

パヴリコフスキは好きかもしれん。ポーランド映画祭で来る前から存在は認知していたが、アカデミー外国語映画賞を受けるほどとは思わなかった。そんな大事になれば非線形天邪鬼として見る気がなくなるわけで放置していたのだが、新作「コールド・ウォー」を見る機会を得たので先に見ておくことになったという次第である。

戦後すぐに修道院に預けられたイーダと検事として歴史の表舞台に立ち続ける叔母ヴァンダ。キリスト教に対する受容的な態度と否定的な態度、前世紀的な修道服と現代的な服装、知らない過去と忘れられない過去。様々な対立に揉まれたイーダはその両親の行方を巡る旅によって無垢さを失ってゆく。ヴァンダの自殺によってイーダは酒とタバコを手に現代的な衣装に着替え夜の街へ繰り出す。

話自体は大したことないんだが、ショットの構成や音楽は死ぬほどキマっている。お開きになったパーティのショットは泣いたし、自殺シーンの画面の静謐さは特筆に値する。静と動の扱い方も上手く、尺の短さも丁度よく、全くもって無駄がない。最近は無駄だらけ且つ拘りのない映画をよく見るので"無駄がない"ことの素晴らしさに、拘りが美学を感じる映像として美しく響いていることに、私は感動している。最後裸足で背伸びしてダンスする姿は、イーダの姿をそのまま投影していて普通に泣いた。

兵役から逃げるアルトサックス演奏者の青年と一夜限りの関係を結んだ後、イーダは修道服に着替えて部屋を後にする。どこに帰っているかも分からずに、自分が何者であるかも証明できずに。キリスト教は彼女に何も与えてはくれないだろう。それはユダヤ教も同様である。ユダヤ人殺害の歴史は当事者がいなくなることで次第に忘れ去られ、後には何も残らない。
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