NAOKI

チョコレートドーナツのNAOKIのレビュー・感想・評価

チョコレートドーナツ(2012年製作の映画)
3.8
叔父が身体障害者施設の所長のようなことをしていて…学生時代に少し素行が乱れたおれは、親に無理矢理ここに手伝いに行かされたことがあった…

「体が不自由でも毎日をせいいっぱい頑張ってる子供たちを手伝って…その甘ったれた根性を叩き直してこい!」

と…いうわけだ。

夏休みに緑深い山の中腹にあるその施設に数日通った。

小児麻痺だろうか…体が不自由な上に言葉を話すことが出来ない「キミちゃん」と皆から呼ばれているおれと同じくらいの歳の少年と一緒に働いた。ビニールをプレス機にかけてエアキャップ(プチプチ)を作る仕事だった。

「あーあーうーうー」
何かうなり声のような声を出しながらキミちゃんは身ぶり手振りでおれに機械の使い方を教えてくれた。

夕方…仕事が終わるとキミちゃんはおれをキャッチボールに誘った。身体は不自由でも器用にキャッチボールをすることが出来るもんだ…と感心した。

「あーあーうーうー」
キャッチボールの後…キミちゃんはしきりにおれに何かを伝えようとした…手の動きは手話のようだった。
「おれ…手話は分かんないよ」

するとキミちゃんは棒切れを手にすると地面に何かを描き始めた。ものすごい勢いで何かを地面に描いていく…

見てもわからない…途方にくれていると叔父さんがやって来た。
「なにやってるんだ?」
「キミちゃんが、おれになんか言いたいみたいなんだけど分かんないんだよ…」
「この子は喋れないけど…すごい『おしゃべり』なんだよ」
叔父さんは可笑しそうにそういうと…真面目な顔に戻ってこう言った…
「わからないなら『わからない』と言ってやれ」

おれは汗だくで地面に何かを描き続けているキミちゃんの所へ行って…
「キミちゃん…もういい…」
と言いかけて地面の絵を見てはっとした。
Tシャツの絵でわかった…
「あ!これ…おれだな!」
キミちゃんは激しく頷いた…
おれらしい男の絵の横におっぱいのついた女の子の絵が描いてあった。
「そっか!おれに彼女がいるか?って聞いてんだな?」
キミちゃんは「あー」と笑いながらさらに激しく頷いた。

「いたら…こんなとこに来るわけねぇだろ~」(笑)
おれも棒切れを拾ってキミちゃんと同じTシャツを着た男の絵を描いた…ちょっと迷ったが曲がってる手足もリアルに描いた。
キミちゃんは「あーぼくだー」という感じで、両手を上げて激しく笑った。
その横にもっとおっぱいの大きな女の子の絵を描くとブンブンと激しくかぶりをふりながら「あー」とキミちゃんは笑い転げた。

それから暗くなるまで施設の庭中に二人で絵を描き続けた。

この映画を観てる時…キミちゃんのことを思い出した…
この映画についてもいっぱい言いたいことがあるような気がしたのだが、見終えると何も言いたくなくなった。
この映画を観ておれが書けるレビューは一言…

「おれもチョコレートドーナッツが食べたくなりました」

これだけでいい。

なぜか叔父さんの言葉が思い出される…

「この子は喋れないけど…すごい『おしゃべり』なんだよ」
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