わたふぁ

チョコレートドーナツのわたふぁのレビュー・感想・評価

チョコレートドーナツ(2012年製作の映画)
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朝、玄関の前に衰弱した野良猫が横たわっていて驚いた。車に轢かれたのか、前脚だけで歩いていて、ダラっと垂れた後脚は骨折して脱臼しているようだった。最期の食事かもしれない猫缶とミルクをあげたらニラみつけながらも平らげてくれた。そのあとは、痛すぎて気失いそう、という感じで震えながら寝ていたので、恐る恐る毛布も掛けてみた。
痛くて動けないのに気持ちだけは逃げようとするから安易に捕まえられない。しかもウチは既に猫を飼っていて(こっちも保護猫) 新たに飼うことはできないので、保健所で保護してもらうしかなかった。
この世にいられる時間はもうそんなに長くはないかもしれないけど、冷たい風にあたりながら痛みにじっと耐えてその時を待つより良かった、のかな。

助けてあげられなくてごめんねと思い、今日はどうしても優しい映画を観たかった。公開当時、静かな映画館の中で呼吸困難になるくらい泣いた今作を、それ以来初めて観た。この作品は原題より邦題が好きです。最高に甘くて美味しくて幸せをくれる食べ物を冠に。

ドラッグクィーンのルディは孤独なマルコを自ら児童福祉施設に追いやるようなことは決してしなかった。家賃を何ヶ月も滞納していて、自分の生活だけで手一杯なのに。夫のように信頼できるボーイフレンドもできて、本当の母親の顔になっていく姿が美しく愛らしかった。

言い方はヘンだけど、ルディは男であり女であるから、人間として魅力的なんだと思う。理性で抑えるところ、感情に任せるところ。大胆かつ繊細なところもあって。そして男の優しさと、女の強さも持ち合わせている。マルコはとっても素敵な”お母さん"を持つことができたんだね。

...野良猫には、わかってもらえなくてもいいんだけど、痛くて辛かった時間だけでなく、ほんの少し「優しくしてもらった」っていう思い出が残っていてくれたらいいな。