映画漬廃人伊波興一

黒い下着の女 雷魚の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

黒い下着の女 雷魚(1997年製作の映画)
4.6
これほどの(原始的な緊張)はどの国の映画史を細かく紐解いても、簡単に見つけられるものではありません。
瀬々敬久「黒い下着の女 雷魚」

椎間板ヘルニアと慢性膵炎を抱えながら不倫相手を探す人妻 佐倉萌も、得体のしれぬ情念で彼女に殺されるテレクラ男 鈴木卓爾も、行きずり男 伊藤猛もとんだ食わせ物ぞろいですが、彼らは皆どこかで、端倪すべかざる鋭角的な情勢から放出される(緊張)というものを、ある種の心地よさとして受け止めている気がします。
そして観ている私たちもまた、その緊張が少しでも長く保たれ、一層高まる事を秘かに願っており、いかなる相手でも矯めつ眇めつ見る痩せぎすのヤクザを目の当たりにしたかのように、こう着状態になるのみ。

普段は鳴く事で交尾相手の異性に訴える虫は沈黙し、飛翔する姿で異性に訴える鳥は直線的な肢を微動だにさせられす、菌を媒体する忌み嫌われる蟲でさえ、どこか適当な所に身を隠してしまいそうな文字通り(原始的な緊張)が75分の上映時間に張り詰めます。
製作費は僅か600万という破格の低予算なのに音楽・安川午朗。脚本・井土紀州というのが驚きです。

近頃は「感染列島」「64~ロクヨン」「8年越しのの花嫁」「友罪」「菊とギロチン」など、すっかり巨匠の安定感の瀬々敬久監督。
最近また一人お若い日本映画ファンの方と知りあう機会がありまして、本作の話題に関しては意外と知られていない事実を教えて貰ったので
(こいつはもったいない!)と取り急ぎ挙げさせて頂きました。