わさび

ダブリンの時計職人のわさびのレビュー・感想・評価

ダブリンの時計職人(2011年製作の映画)
4.5
良質な作品だった。

断っておくが、時計職人の物語ではない。
イギリスからアイルランドに帰って来た元・時計職人(それも数あった仕事のうちの一つ)が、住む場所がなくて車上生活を余儀なくされ、そこで知り合った同じホームレス仲間の青年と親交を深めていく話である。

真面目で几帳面なおじさん・フレッドと、ノリの軽いジャンキーだが何処かピュアな顔をした青年・カハル。一見全く接点のなさそうな二人が、ひょんな事から友達になり、意外と反りの合うところを見せていく描写がとても良かった。
演じていたコルム・ミーニイもコリン・モーガンも、役柄にぴたりと寄り添い、繊細な演技を見せてくれた。

静かで、派手さもなく、いっそ地味と言っても良い作品である。
が、アイルランド(に限った話ではなかろうが)の社会問題を垣間見られると共に、人生を生き抜く事の厳しさ、然しその中にある微かな光の美しさに、胸が熱くなる映画であった。

フレッドが直してあげた二つの時計。彼が止まっていた時間を進めてあげた、二つの時計。せめて一方の持ち主だけは、その時間を幸せに使っていってほしい。
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