回想シーンでご飯3杯いける

おやすみなさいを言いたくての回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

4.5
日本でも何かと話題の戦場ジャーナリストと、その家族の関係を描いた作品。久々に大きく心を揺さぶられた。

自らも報道写真家であるノルウェーのエリック・ポッペ監督が、自身の経験に基づいて作った作品らしいのだが、氏が男性であるのに対して、映画の主人公は女性カメラマンになっている。この変更により、日本でも取り沙汰されている「自己責任」問題の見え方が大きく変わっている点に注目したい。

これまでも他国のジャーナリストを含め、紛争地で被害に遭うのはほぼ男性ジャーナリストで、それ故に身代金の負担や、安全保障、社会的影響に対する謝罪等、社会的側面を軸に議論される事が多かった。これに対して本作は女性が主人公。ただそれだけの違いで、母親として、個人としての責任や、家族の問題、トラウマの問題を含めた、大きな意味での人間ドラマとしての部分がクローズアップされる事の驚き。これは監督による意図的な変更なのだろう。着目点が素晴らしい。

また、夫、高校生の長女、まだ幼い次女、友人等、各々主人公と違う関係性を持った人物を配置する事で、彼女の人間としての多面的な魅力を映し出す構成もお見事である。

ヨーロッパと日本の違いという事も大きいのだろうが、社会的、金銭的側面ばかりが追求される日本の「自己責任」問題にも疑問を感じるし、一方で擁護派が持ち出す報道の自由や国家のための使命といった名目も、本作を観ていると何だか違うように思えてくる。

この「おやすみなさいを言いたくて」で、女性カメラマンの行動を支えているのは、社会に対する怒りと自己実現である。「世間がパリス・ヒルトンのゴシップに夢中になっているのを見ると無性に腹が立って、紛争地の写真を撮りたくなる」そんな欲求が1人の人間のアイデンティティとなり得る事を知る、貴重な映画である。

また、大作アメリカ映画では問答無用のモンスターとして描かれがちなテロリストを、等身大の姿で描いている点でも、真摯な作品だと思う。自爆テロを実行する少女のシーンが目に焼き付いて離れない。