Osamu

鏡は嘘をつかないのOsamuのレビュー・感想・評価

鏡は嘘をつかない(2011年製作の映画)
4.0
インドネシアの美しい海の風景。
海の民バジョ族の生活。

天国のように美しい風景なのですが、そこに生活が確実に存在する実在感があります。

漁に出たきり帰ってこない父親を待つ少女と、その母親の物語。

少女は父親が遺した鏡と物語を胸にひたすら待ちます。母親のことを完全に拒絶しています。

母親は夫の不在を埋めるべく働きます。けれど、女一人で海から生活の糧を得るのは簡単ではありません。おそらく若く美しい母親は、家族との関係も仕事もうまくいかず苦悩します。

「おそらく」としたのは、母親が顔を白塗りで隠しているからです。行方不明の夫の無事を祈るまじないの一種なのでしょうか。隠された姿にはエロティシズムを感じ、それを暴きたい欲望に駆られます。

生きることに極めて近いところにある欲望と不安を自分の内側に押し込んで、何事もないかのように振る舞って澄まして生きている僕のような人間はこの映画には出てきません。

生きる、ということをひたすら感じる映画。

傑作ではないかもしれませんが、こんな映画に出会うために、僕は映画を観続けています。
Osamu

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