このレビューはネタバレを含みます
ジャファール・パナヒ作品がカンヌ映画祭コンペティション部門で初めて上映されることを記念して。
おそらく現代において最も野心的かつ挑戦的な映像作品を作り続けているパナヒだけど、前半と後半でガラリと変わる構成にはビビった。
最初はパナヒの実生活を参考にしつつも普通のドラマを展開させるのかと油断させつつ、実はドラマが繰り広げられていた場所はパナヒの家で、ドラマで起こったように実際の家も荒らされてパナヒが途方にくれるという、まるで虚構が現実に与えたかのような哲学的メタフィクションへと進行していく様はまさに晴天の霹靂。
でも実際パナヒは創作活動の影響で自身の生活を束縛されることとなったわけだから、そう考えるとこの作品で訴えられた物事にも説得力があるように思える。
しかもその斬新さや風刺性だけでなく、小津や師匠のキアロスタミを思わせる映像も絶品で、特にラストのキアロスタミ的長回しは叙情的で見事と言わざるを得ず、パナヒの発想力と豪胆さと映像センスに驚嘆するばかりの力作となっていた。