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インサイド・ヘッドのRenのレビュー・感想・評価

インサイド・ヘッド(2015年製作の映画)
3.0
天才ピート・ドクターが爆発した結果、94分に詰め込んでいい訳のない情報量を詰め込んでしまったのに観客を感動の渦に巻き込むスゴ技をやってのけた、ピクサーの中でも随一の難解かつ独創的な作品。当時「ピクサー最高傑作」的な触れ込みで注目されていたのもよく覚えてる。

こんなルール的に難解な(難解ではない)映画が一般客の高評価を掻っ攫って大ヒットしているのがヤバい。頭の中に世界を創り出し感情を擬人化し冒険させるメインプロットと、実世界で揺れる女の子の物語を相互に干渉させ合いながら同時進行で進める狂気の沙汰。途方も無い脚本の推敲と編集の賜物。

誰でも分かる感情の話なので十者十様の感想で語り合えるのが今作の優れた点だとは思うけど、自分はそもそも設定を上手く飲み込めなかった側の人間だった。

人間=ライリーの多様な感情を脳内の5人のキャラクター(ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ムカムカ、ビビリ)が表現するのは分かるとして、ヨロコビ自身が喜び以外の感情表現はできるんだ、というところにまず引っかかってしまう。ヨロコビが「ライリーに喜びを与えるキャラクター」なのか「彼女自身が喜びしか抱かない」のか軸が確定しないので、上手く入り込めない(カナシミはほぼ悲しみしか表現しない)。
人間の複雑に絡み合う感情の多様性を彼らのドタバタで表現するはずなのに、その中の単一のキャラクターがまた多様な感情を持っているとなると一気にややこしくなるなぁと思う。ヨロコビの頭の中にはさらに5人の感情がいるのか?

この世に存在しない脳内世界を具現化したことはイマジネーションに溢れていてワクワクできるのかもしれないけど、一方で物語に都合の良いように設計できてしまうという罠がある。
効率や安全面を考慮すればあんな構造をしていないほうがいいのに、こうなっていないとトラブルが生まれない・気持ち良いアクションができない→じゃあこういう作りにしましょう、という順番で作られているのでスカッと没入できない。

最終的に辿り着く結論は明快かつ納得かつ感動。ある一つの感情の先にさらに多様な感情が存在し、全ては繋がっていて/表裏一体で、どれも大切な感情である。多感な時期プラス環境の変化で感情がカオスに入り乱れていく中で、「物語」としても「人間」としてもこれしかないだろうという綺麗な着地。
となると、ヨロコビとカナシミ以外の3人が蚊帳の外なのが疑問に思えてくる。結局彼らの繋がりが描き込めなかったのだとしたら、テーマ的に100%成功していたとは言えないのではないか?

一見複雑な世界観をスマートに説明してのめり込ませる、という意味でよりアップデートされたのが同監督による『ソウルフル・ワールド』だったように思った。どちらも大人の心を射抜くことのできる傑作アニメーションだということに変わりはない。

その他、
○ 全部が感情ベースで動いていくけど、人間の理性はどこで処理されているのだろう。
○ ライリーが眠ったら脳内活動はできない、ということは感情たちの上位の存在として生理的欲求を司るところがあるはずなんだけど、それは?
○ ビンボンのあのシーン。現在の問題を解決するために「過去の思い出を完全に忘れ、葬り去る」という代償を払うことにまだあまりピンと来ていない。物語的にビンボンの行為に感動はするけど、ライリー的に必要な犠牲だったのか?と思う。単に不可抗力だったと捉えるべきか?
○ ライリーの脳内には男性っぽいキャラも女性っぽいキャラもいるのに、他の人間の脳内は「人間が男性/女性なら感情も全員男性/女性っぽい」ことに理由はあるのだろうか。
○ ラストのネコちゃんが全て持っていく。このオチ思いついたとき嬉しかったんだろうな〜。

『UNISON SQUARE GARDEN「シュガーソングとビターステップ」』
https://youtu.be/ERLEeGVWYxg

『ばってん少女隊「わたし、恋始めたってよ!」-Music Video-』
https://youtu.be/5I6di1S0Mqw


《第88回アカデミー賞戦歴》
受賞
★長編アニメ映画賞
ノミネート
⭐︎脚本賞
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