晴れない空の降らない雨

アーロと少年の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

アーロと少年(2015年製作の映画)
3.6
 あまり良い評判を聞かないというか、とにかく存在感が薄いので、単に地味で今ひとつの出来なんだろうと思い込んでいたが、予想よりも何というか奇妙な作品だった。
 たしかに、Tレックスと行動を共にするあたりからは思い出したように主人公アーロの成長譚らしくなり、まとめ方は普段どおりのピクサー作品である。その点から評価すると、たしかにお約束をなぞっただけで薄味だと思う。
 
 しかしそんなことよりも、Tレックスたちと出会うまえの珍道中というか、〈危険がいっぱい! わんぱくペット(人間)と送るワイルドライフ〉みたいな前半が、いったい何をしたいのかよく分からず困惑した。
 典型的なピクサー作品では、各シーンには物語全体にとっての意味・役割がきっちりと与えられている。本作のシーンもある程度はそうなのだが、事件や光景それ自体のインパクトが優先されている印象を受ける。それを支える超リアルな大自然はもはや洋ゲー。しかしキャラクターはあいかわらずカートゥーン調であるため、浮いている感じが最後まで消えなかった。
 フォトジェニー(この概念はCGにも適用してよいのか?)が満載な一方で、気色悪かったり暴力的な場面もかなり多い。巨大な甲虫の顔がクロースアップにされたり、腐った実を食べてグロシュールな夢を見たり(久しぶりの「ピンクの象」パロディ?)、小動物が前フリもなく残酷なやり方で餌食になったりと、ところどころトラウマ級である。アーロはしばしば痛そうな目に遭うが、それも何とも生々しい。
 まぁ『スタンドバイミー』みたいなことやりたかったのかな。正直、本作のことをどう評価したらよいか分からないのだが、不思議とあまり悪く言う気がしない。それは、臆病な少年のビルドゥングスロマンという話の主軸に拘泥しないで、好き勝手やっている雰囲気があるからだと思う。時には容赦ない仕打ちを加え、時にはこの上なく美しいものを見せるような主人公に対するスタンスには好感がもてるし、それによって作中世界のさまざまな側面を味わえる作りになっている。
 
 なお、本作でも監督の途中交代があった。元々は『カールじいさんの空飛ぶ家』の共同監督ボブ・ピーターソンが就いていたが、公開が延期されるほど制作が難航し、その過程でピーター・ソーン(ええい、ややこしい)という人に変更された。一頃もてはやされていたピクサーの制作体制だが、実はあまり上手くいっていないのでは。人が育っていない気がする。
 そのとき作曲家もトーマス・ニューマンからダナ兄弟に変更されたのだが、これはなかなか良かった。太古の恐竜ものということでワールドミュージックだが、よくある打楽器が主役ではなくメロディが綺麗で、聴いたことのない音色が多くて面白かった。後半はアーロとスポットの友情で泣かせに来るのだが、だいぶ音楽に助けられていると思う。