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007 スペクターのTAKUのレビュー・感想・評価

007 スペクター(2015年製作の映画)
4.0
先行上映にて鑑賞。超面白かった。ダニエル・クレイヴ版の中では一番好きかもしれない。

今でのクレイヴ版ボンドはあんまり感心しなかった。『カジノロワイヤル』と『慰めの報酬』は見せ場が派手で良いのだが、終始眉間にしわを寄せたようなシリアスな雰囲気が濃厚で、僕がボンド映画に求めているユーモアさが希薄だった。そして、その次の『スカイフォール』は、『007』というシリーズを緻密な画面設計によってアート化することで、ショーン・コネリー版にあった優雅さを引き出すことに成功していた。しかし、そこに力を入れすぎたせいで、エンターテイメント性やドラマ部分がおざなりになっていた。

そして、こと本作は前作のラストで原点回帰という新たなスタートを宣言したからか、優雅さを保ちつつも前作で僕が感じた欠点を克服し、上質なエンターテイメントへと昇華していた。

始まって早々、画面の右から左へと歩いてくるジェームズ・ボンドが、こちらに向かって銃を撃つと上から血が流れ落ちる、ガンバレルシークエンスが流れ、思わず満面の笑みを浮かべてしまった。『カジノロワイヤル』ではボンドが振り返って銃を発射した瞬間にガンバレル・シークエンスの構図になり、『慰めの報酬』ではエンドロール直前に流れたりと、クレイヴ版以降は変則的になっていたので、今回ちゃんと最初にやってくれたのには嬉しかったし、ここで作り手たちの原点回帰に対する志の高さを感じた。

アヴァンタイトルにあたるメキシコシティでのファーストカットは圧巻の一言。死者の日のパレードを映したロングショットから、クレーンで人混みの中にいるボンドと標的へとカメラは近く。そして、カメラはボンドと一緒にホテルの中へ入っていく。ホテルの屋上へと出たボンドは向かいのビルにいる標的へと銃の標準を合わせる。ここまで挙げた3、4分程のシークエンスを全てワンカットで撮っているのだ。後述するホイテ・ヴァン・ホイテマの手腕が冴え渡っていた。その後のビル爆発からの追跡劇、飛行中のヘリコプター内での格闘も溜めやケレンがしっかりしていてスリリング。

そして、一件落着してからのオープニングタイトル。サム・スミスが手掛けた主題歌「Writing’s On The Wall」と、タコと美女が戯れる映像が相まって、死やセックスの匂いがプンプン。『スカイフォール』のオープニング級だった。余談だが、サム・スミスが最も影響を受けたアーティストの一人として、前作『スカイ・フォール』のオープニング曲を歌ったアデルの名前を挙げているらしいが、これは単なる偶然か?。

本作のアクションは見どころが多すぎて見終わった後は満腹状態。劇中でボンドはメキシコ、イタリア、オーストリアと世界を股に掛けるわけだが、その国々の風土に合わせたアクションが展開されるので、そういう練られ方しているだけでサムズアップしたくなる。また、そういったアクションの最中にユーモアや洒落っ気をしっかり入れているのも憎い。モロッコの場面の大爆発シーンは、ギネスに「映画史上最大の爆破シーン」と認定されるほどのド迫力。

撮影は特筆すべきものがあった。撮影監督はロジャー・ディーキンズからホイテ・ヴァン・ホイテマにバトンタッチしたものの、左右対象な構図といったグラフィカルな画面構成は健在。また、前述したファーストカットの長回しには恐れ入った。イタリアの夜の場面におけるセピア調の照明も美しかった。

前作に引き続き音楽を担当したトーマス・ニューマンも良い仕事をしていた。登場人物の感情、状況の緊迫感、カットの移り変わり、小道具、大道具の動きといった映画の中の事象と音楽がリンクしている、高度に計算し尽くされた作曲には頭が下がる。

また、トム・フォードの衣装も書くまでもないが、本当に素晴らしい。ただ、ボンドが着ているスーツの生地が異常に薄くてピッタピタなため、途中で破けないか心配になった。

前作で原点回帰を提示してみせたからか、本作では過去の007を彷彿とさせるようなシチュエーションがいくつか見られた。アヴァンタイトルの死者の日のパレードに参加している人たちの衣装が『死ぬのは奴らだ』のサンディ男爵で、ボンドガールであるスワン(レア・セドゥ)がいる雪山の上の診療所が『女王陛下の007』で出てくるスペクターの基地ピッツァグロリアっぽいし、列車内での肉弾戦は『ロシアより愛を込めて』の列車の場面に似ていた。そういう風な視点で見ていると、本作のラストは、『007』シリーズにおけるボンド史上最大の悲劇が次作の冒頭で起こるのではと想起させられる。

最後に、今年はスパイ映画の年だったと僕は思う。カーレースをフィーチャーしながらもスパイ映画的な要素が盛り込まれていた『ワイルド・スピード:SKY MISSION』。『ミッションインポッシブル』シリーズの5作目にして最高傑作だった『ローグ・ネイション』。『007』シリーズやそれに触発された『ナポレオン・ソロ』へのラブレターとして作られたであろう『キングスマン』と『コードネーム U.N.C.L.E.』。日本でも『ジョーカー・ゲーム』(見てない)が公開された。そんな中、スパイ映画の元祖『007』シリーズ最新作である本作『スペクター』は、そういった後輩たちに負けじと最大限の力を発揮し、本家の凄さをキッチリ見せつけていたのではないだろうか。