映画バカ

007 スペクターの映画バカのレビュー・感想・評価

007 スペクター(2015年製作の映画)
3.9
ダニエル・クレイグボンドの4作目にして、過去の3作品を包括した集大成的作品。

前作の『スカイフォール』は、原点回帰を高らかに宣言して、その幕を閉じた。
本作は、その宣言を全うするべく、徹底している。

それは、冒頭のアクションですぐわかる。
崩壊する建物の中でボンドが落下、もうダメかと思いきや、下には運良くソファーが置いてあり、難を逃れる。
往年のボンド映画らしい、実にバカバカしいアクションだ。
ダニエルボンドの特徴だった、シリアスな雰囲気はなりを潜め、今回はギャグも多く入っている。

また今作では、旦那の葬式を終えたばかりの未亡人宅へ潜入し抱くという、プレイボーイぶりを発揮する。
『慰めの報酬』で、メインのボンドガールであるカミーユに手を出さなかったのが、嘘のようである。
前作までの、泥臭いボンドはもういない。
9年の歳月を経て、ダニエルボンドは我々のよく知るジェームズ・ボンドに、遂になったのである。
この原点回帰を歓迎できるかどうかが、本作の評価の最大の分かれ目だろう。

スタッフは前作とほぼ同様の布陣だが、大きく変えてきたところがある。
カメラマンと編集者だ。

前作の『スカイフォール』では、撮影監督のロジャー・ディーキンズと編集のスチュアート・ベアードが、作品成功の立役者として大きな力を発揮していた。
本作ではその2人に変わり、撮影監督をホイテ・ヴァン・ホイテマ、編集をリー・スミスが担当している。

ホイテ・ヴァン・ホイテマといえば、近年だと『her/世界でひとつの彼女』の美しい映像が記憶に新しいカメラマンである。
リー・スミスは、クリストファー・ノーラン組の編集者だ。

まずはホイテマについていえば、全く問題ない。
それどころか、前作を上回る出来の映像もある。
例えば、誰もが驚くであろう冒頭の長回しのカット。
一体どうやって撮影したのか、ぜひともブルーレイの映像特典にメイキングを収録してもらいたい。
CGによって、どんな映像を見ても驚けなくなってしまった現在、このような映像で驚かせくれる映画に出会えることは、非常に幸運である。
他にも、『サンダーボール作戦』以来となるスペクターの会議シーン。
シンメトリックな画面構成に、照明と影の美しさ。
なんとゴージャスなことか。
さすが、前作『インターステラー』で、出来る限りIMAXカメラで撮影したいというノーランの無茶な要求に、最大限応えたカメラマンなだけある。
これだけでも、十分にお金を払って見る価値がある。

編集のリー・スミスについていえば、やはりノーラン組の編集者だけあって、どことなくノーラン映画のようなテンポ感を感じる。


本作は、ダニエル・クレイグがインタビューで述べていたとおり、「ファンタジー映画」である。
ファンタジーにご都合主義的などと非難したところで、野暮というものだろう。

だがそれでも、一つだけ言っておきたい。
やはり本作は、悪役の魅力が弱く感じる。
それは、それだけ前作の悪役であるシルヴァが魅力だったということの反動でもあるのだが、それにしても、あのクリストフ・ヴァルツをメインの悪役に迎えながらこの使い方は、勿体無いとしかいいようがない。
公開前のインタビューでヴァルツは、あれだけブロフェルドの登場を強く否定していた。
にもかかわらず、あんなにあっさりと正体を明かされると、正直驚きも何もあったものではない。
確かに、あの歯医者さんプレイのところなどは、ヴァルツ独特の嫌らしもあって、非常に魅力的だった。
だがなんというか、全体的にあまりにも間抜けなのである。
これは、ヴァルツ演じるブロフェルドだけではなく、デイヴ・バンティスタ演じるヒンクスや、アンドリュー・スコット演じるCも一緒である。
例えばヒンクスは、不意打ちを仕掛けながら素手で闘うという、卑怯なんだか潔いのかよくわからないキャラクターになっている。
Cについては、やはりアンドリュー・スコットの最大の当たり役がTVドラマ『シャーロック』のモリアーティだけあって、どう見ても最初から胡散臭く見えてしまうので、裏切り者だとわかっても驚きはない。
そもそも、「ダブルオー・プログラムはもう古い」、「Mの上司が敵の組織と繋がっている」というプロットは、前作『スカイフォール』前々作『慰めの報酬』と全く同じである。
ダニエルボンドの総括的作品だからといって、これはあまりにも芸がないのではないだろうか。
さらにガッカリなことに、三者とも退場の仕方が残念という点で共通している。

あと残念といえば、前作までの悪役が全てブロフェルドの下にいたという設定。
あのシルヴァもブロフェルドの下にいたのかと思うと、なんだか急に小物感が出てきて、複雑な気持ちになってしまう。

前作の『スカイフォール』は、ボンド映画全般をメタ的に批評し、その上でジェームズ・ボンドを再構築した意欲作であり、それ故、それ以前のボンド映画を超えたボンド映画となっていた。
中には、その『スカイフォール』のさらに先を見せてくれないかと期待した人もいるだろう。(私もその一人)
そうした期待には、残念ながら本作は応えているとは言い難い。
作品の総評としては、どうしても前作には劣ると言わざるをえない。


これがダニエルボンドのラストになると噂されているが、それも納得出来る。
ダニエルの契約自体は、あと1作残っているそうだが、この綺麗に纏まった物語の続編となると、どうやっても蛇足と言われてしまうだろう。
いや、もしかすると、次回作こそ奇跡的な一作になるかもしれない。
なんといっても、ダニエルボンドの奇数に当たる作品は、どれも傑作なのだから。

にしても、次回作を担当する監督のプレッシャーは、相当なものだろう。