Torichock

007 スペクターのTorichockのレビュー・感想・評価

007 スペクター(2015年製作の映画)
4.3
「007 スペクター/Spectre」

大傑作「スカイフォール」そして、オールタイムベストである作品。
あまりにも最高傑作すぎて、計6回くらいシアターで鑑賞した自分にとって、本作は撮影監督にホイテ・ヴァン・ホイテマを迎え、ボンドガールにはレア・セドゥ、そして敵役にはみんな大嫌い(大好き)クリストフ・ヴァルツが名を連ね、これ以上ないほどの期待、「スカイフォール」を超える期待を持っていた作品。先行初日に鑑賞してきました。


Day of the Dead


死者の日から始まり。
冒頭、3分くらい?の長回しで死者の行進の中を進むボンドが敵を追いかける画は、これからボンドが一度死んだはずの人間のうねりに飲み込まれていく様相を予兆するかのように観える。もう、この時点で映画の映像・視覚的な快感がビシビシと肌を刺す。(メキシコで長回しなんて、アルフォンソ・キュアロンとかアンハンドロ・イニャリトゥに対する何かのアプローチか?と穿った見方もしちゃいました)

オープニングの映像は、確かに"Skyfall/ADELE"を使った「スカイフォール」の、濃密な死と官能の香りが漂う完成度と比べてしまうと物足りなさも感じました。
が、見終わってから約5日が経って、ようやく"Writing's on the wall/Sam Smith"の曲が持つ"愛"と、恐らく本作のテーマであろう"愛"と"運命との決別"にリンクしました。

そう、本作は"愛と運命との決別"なのだと思うのです。

今回でボンドに愛されるスワンは愛する父との決別、その父でありボンドの前で自害したホワイトは愛する娘との決別、ルチアは愛する夫との決別、その愛する夫を殺したボンドは愛する両親と、ヴェスパーや前任のM、はたまたかつての敵相手であったシルヴァとの決別、そしてそのシルヴァのボスであるオーベルハウザーは愛憎に満ちた父とボンドとの決別。

"I want to feel love, run through my blood

Tell me is this where I give it all up?"



愛を失い、運命(本作では運命は蛸の足?)に足を取られ身動きが出来なかった登場人物たちによる、全てはボンドという人物を中心に、数珠繋ぎになったその運命を断ち切るためのアクションが多かったと思います。

スペクターとは何か?



【Spectre】

1. 頭から離れない経験の心的表象(a mental representation of some haunting experience)
2. 気味悪く現れている人影(a ghostly appearing figure)

僕の感じ方ではありますが、この【Spectre】という言葉自体、ある意味では運命、あるいはそれに準ずる呪いのようにも思えるのです。

サム・メンデスの美しすぎる映像と、左右均等にデザインされた画面構築の中でも、今回は特にボンドが特定の人と"対峙"しているシーンが多かったように思います。ボンド→誰か→ボンドの切り返しも多かったように思えたし、最後の橋のシーンなんかは、それこそもろに。運命との決別、そして愛するものの選択。

愛するものと言えば今回、Mi6のチームがボンドの行動を支えるところが多かったように思います。もちろんQとのやりとりなんか、映画館の温度が2〜3℃上がっていくのを感じるくらい、微笑ましいシーンなんですが、今回はスリリングなシーンにも登場。さらに007の秘密兵器がネタ的な扱いをされながらも、しっかりと必要な場面を用意されてるあたりが、とても周到で嬉しかったです。
「スカイフォール」で破壊された本部が、廃墟のまんまというのも、話的には?が出ますが、ストーリー的には廃墟である必要性もあったし、テムズ川を挟んで見る廃墟はなかなかの圧巻。それして、その中にいるボンドを見守るMi6のメンバーもいい。

"If I risk it all
Could you break my fall?"



Mi6のボンドへの信頼だけではない。

ボンドからの、Mi6に対する信頼もあるところが、この歌にも隠されていたのではないでしょうか?

国家安全保障が、スパイ組織に対して疑問を抱き、解体を目論んでいるって、これ「ミッション・インポッシッブルシリーズ」のまんまなんですけどね。あと国家安全保障局の俳優が、ドラマ"SHERLOCK"のモリアーティ役なので、なんか怪しさはプンプン漂っていたのはアレですが...

スペクターの親玉、クリストフ・ヴァルツのオーベルハウザーも実に惜しいと思いました。

クリストフ・ヴァルツは、もっと小狡くて嫌味な方が良いというか、今回のオーベルハウザーにはちょっと、悪玉全としてる部分が少なかったのかなぁとか思いました。そもそも、シルヴァの上に立つ人が、少し脇が甘過ぎるというか、ボンドの敵役にしてはあまりにもおバカ...とは言いつつ、やっぱりルックは最高にいい。特に、強化ガラス越しで、嫌味ったらしく待ってる姿とかは非常にカッコ良かった。

そういえばガラス越しという事態は、目の前にありながらも手が届かないという状況で、それはヴェスパーを失った時のボンドが、目の前にありながら何もできなかったシーンと重なるように見えました。



つまり、愛と運命というテーマについて思うと、クレイグボンドにおいては、最愛のヴェスパーを失い、敬愛のMもその腕の中で永遠の眠りについてしまった男。つまり、彼が誰かを真に愛した時、その相手を失う運命にも絡みつかれてるのかもしれません。(オープニングにも、それを示唆する映像アリ)



愛を失う恐怖(運命)

すなわちそれは、



"For you I have to risk it all
Cause the writing's on the wall"



に繋がるのではないでしょうか?

愛すること、愛するという選択と運命を受け入れることに対する、リスクと失う恐怖。

誰の心にもあるものかもしれない物語を、約束事が多い007という伝統的なシリーズの中に匂わせる手際を考えても、やはりサム・メンデスの恐ろしさは計り知れません。

ダニエル・クレイグも、残り一回やるかやらないかだそうなので、クレイグ版ボンドは、サム・メンデスで完走してくれることを祈ってます。

比較対象が、どうしても前作「スカイフォール×ADELE」になってしまうし、2015年は特に、文句ナシ過去最高傑作の「ミッション・インポッシッブル ローグ・ネーション」や、痛快爽快超愉快「キングスマン」など、スパイ映画当たり年とあって、かなり風当たりが強い中でも、やっぱり素晴らしい完成度だなぁと、改めて感じさせてくれる本作。

甘さも含めて、やはりそれでも僕はクレイグ版ボンド、大好きです。

あと、2回は劇場で観たいと思います。