ちい

007 スペクターのちいのネタバレレビュー・内容・結末

007 スペクター(2015年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

偉大なる“母”・Mがこの世を去り、新しく生まれ変わったMI6は依然存続の危機に立たされていた。世界各国が現代における安全保障の枠組みを再構築していくなかで、スパイの存在価値は揺らぐ一方であった。不安定な状況の中でボンドの前に立ちはだかる謎の組織「スペクター」。一方、新しくMとなったマロリーは、同じく新任のMI5の責任者Cから「00部門は時代遅れ」という言葉を突きつけられ、物語は幕を開けた。

ダニエル・クレイグの007シリーズ4作目、冒頭でいきなりのガンバレル・シークエンス!!これから観るクレイグボンドの成長ぶりを予感させ、並々ならぬ自信が感じられた。彼は、シリーズに敬意を表した上で、咀嚼し、自分のものとして昇華させたと感じた。ローマでのカーチェイスのシーンは遊びもあって、こういうクレイグボンドが観たかったんだ!待っていたのはこれだったのか!と気付かされた。

本作は、スペクターとの対決と、ボンドとマドレーヌのラブストーリーという二代テーマが描かれていた。マドレーヌを演じたレア・セドゥは、本当に素晴らしかった。

マドレーヌは、どこか虚ろな目をしている。殺し屋である父親を遠ざけ、常に危険から身を隠し、逃げ続ける暮らし。しかし、父親の影は常につきまとってくる。またか、という諦めと、見たくないものをたくさん見てきたのだなと思わせる。ただ怯えるだけではない芯の強さがある。それでいて、どこか少女のような素朴さもある。逃げる中で何かを置き忘れてきたような印象を受ける。

彼女は、自分を助けてくれたボンドを激しく拒絶する。せっかく見つけた居場所をまた失ってしまったと激昂する。この時、彼女の瞳はまだ冷めたままである。

タンジールのホテルで両親と幼い自分の写真を見つけ、何かを探していた父の姿を知った時、彼女の瞳に温かさが宿った。すっと何かが落ちたような、とてもいい表情をしていた。じんわり涙も浮かべていたような気がする。

父に対する感情の変化がボンドへの警戒心を緩めたのだろうか。列車でのヒンクスとの対決、スペクター本拠地でのオーベルハウザーによる拷問。彼女は逃げずに真正面から敵にぶつかっていくボンドの姿を目の当たりにし、椅子に拘束され苦しむボンドにかけよって「愛してるわ」とささやいた。ボンドへの愛は、父を許した、と同じ意味に感じられた。だからこそ、再び失う怖さを感じ、ロンドンでの最後の対決の前に、一旦ボンドに別れを告げたのだと思う。

かつて「慰めの報酬」でボンドとともに復讐を果たしたカミーユは、ボンドに対し、「あなたに自由をあげたい、でも地獄はこの中」と語りかける。この言葉がとても印象に残っている。「スペクター」のラストで、ボンドはやっとこの自由を得られたような気がした。

「スカイフォール」から「スペクター」を経て、過去から解き放たれたボンド。本作の終わり方で、ダニエル・クレイグのボンドも見納めか、と感じたが、何度か観るうちに、もう一作出てほしいなと思うようになった。思えばロンドンオリンピックでエリザベス女王をエスコートしたのは彼なのだ。次があるとしたら、是非ユニオンジャックのパラシュートを見てみたい。